この日もサンタは俺に何もしてくれなかった。仕事探しも早々に諦め ケーキ屋へ入ったが、まだクリスマスケーキが割引になっていないので買うのをやめ店を出た。早く仕事を探さないと金も少なくなってきたし、店長は行方をくらましたままで貸した金は返ってきそうにない。
クリスマスのデコレーションは、いらない。まりあの為にロウソクに火を点けてやれるケーキがあればいい。
店が閉まりそうな時間まで適当に過ごし、閉店間際に安くなったケーキを買い、コンビニでノンアルコールビールとメザシを買って、アパートへと足を引きずり帰った。
アパートが近くなるにつれ、サンタも帰ろうとしているのに騒がしくなってきている。
ジングルベルやソリを引く音ではなく、消防車の嫌なサイレンで騒がしくなった。
俺が帰るアパートの方が赤く染まっている。
サイレンの音よりも、ライターを持つアル中の姿が胸を騒がしくさせた。
痛む足を引きずり、ケーキを入れた袋が揺れるのも煩わしく 帰りを急いだ。まだ見えぬアル中に声を掛ける。
「今、ビールを持ってってやるから、おとなしく寝ていろよ。何事もなくいつものように廊下で寝ていろよ」
俺は急いだ。
足が、腰が、背中が、胸が痛くなった。
手に持つ袋が大きく揺れていたが、とにかく急いだ。
が、
ただ呆然と立ち尽くすしか無かった。
アル中にビールを渡そうにも部屋へ入ろうにも、火を消す消防士が、許してくれなかった。
あの日 17本のロウソクが 大きな炎となり 揺れていた
まりあ が 慌てて 吹き消した あの炎よりも はるかに大きな炎が アパートをロウソク代わりにして 揺れている
貯まっていった金が、どこかに消えた…
また貯めれば いいさ
仕事が、なくなった…
そのうち見つかるさ
寝る場所が燃えて、なくなった…
枕は無くていい どこでも寝れるさ
いつ現れても いいように揃えていたマンガが灰になった……
まりあが読むマンガが、消えて…なくなった…
いつまでも微笑みかけてくれる…まりあの…プリクラが……
この世から…消えて…もう戻らなく…なって……しまった…
まりあが…まりあが…
灰になって 消えてなくなってしまった………
朝になり、焼けて崩れ落ちた瓦礫の中を夢中で探し回ったが、何も見つからなかった……
まりあの…俺の…全てが、無くなった。
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