時間になりパートのオバチャンが帰って行った。痩せた男は中々出て来なかったが、調理場の床の側溝をしゃがんで水で流している時、人の気配がして立ち上がり見てみると痩せた男が声も掛けず小走りで帰って行くのが見えた。
この日は夕方から忙しく閉店まで仕事に追われ、帰るのも遅くなった。
翌朝、パートのオバチャンから電話があり痩せた男が出勤して来ないと言うので急いで店へ行き開店準備をした。いつもより早めに店長が来て、休憩室へ入っていく。
数十分もしないうちに店長は俺を呼び、おどおどした態度で
「カバンを知らないか?」
と聞いてくる。
俺の口座から卸した金を入れたカバンが無いと言う。金庫は開け放たれ、中の物を全て出し、机の周り 棚の上 ロッカーの中が探し回ったように散らかっている。
「店長が金庫に仕舞ったのを見たのが最後ですよ」
それだけ言うと、店長はイライラしながら せわしく貧乏揺すりをして頭をかきむしり、やがて汚ない言葉を投げつけてきた。
「カバンどこだよ!」
「どこへやった!」
「俺の金返せよ!泥棒かお前!早く出せよ!」
店長は
「くそっ!」
と吐き捨てると、いくつかの書類などを持ち
「銀行へ行く」
と出ていった。
その日の午後は色々と面倒臭い電話の対応に追われて忙しく、この日も終わるのが遅くなった。
結局、店長は帰ってこず、翌日も開店準備はしたものの店を開ける事は出来ずに、二度とこの店は開く事がなかった。
あの日以来、店長は姿をくらまし、痩せた男も行方知れずになった。
町の中の気の早い一画が、色とりどりのイルミネーションを飾りだし町が騒々しくなってきた。
足を引きずり次の仕事を探したが、どこも門前払いをくらい、憎たらしく笑っているサンタの置物を少し強めに小突き、アパートへと帰った。
廊下ではアル中が煙草を吸いながらライターを点けたり消したりしている。
毎日、仕事を探したが見つからずに気がつけば町は華やかになり、眩しくなっていた。恋人達がジングルベルを歌っている。耳障りだったが廊下のアル中よりかは静かだった。この日のアル中は一晩中 ライターを灯し、訳のわからない事を叫び続けていた。
「おはよう」
と まりあのプリクラに挨拶をしてアパートを出た。
「今日はクリスマスか…」
何かを知らせるように
雪が降ってきた。
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