今年の夏はやけに暑い。
「今日も暑いねぇ…」
パートのオバチャンが同じ所を何度も拭きながら言う。
俺も必要以上に皿を磨いて言う。
「そうですね」
昨日も一昨日も言った気がする。
明日も言いそうだな…
店長がアクビをしながらトイレに行った。
夜の仕込みも明日の分の仕込みも終わっている。皿をピカピカにするしか仕事がない。
不景気がこの町にも来ていた。
店長が伸びをしながらトイレから出て、休憩室に入っていく。
パートのオバチャンに断り俺も休憩室に入って行った。
「店長すいません。先日の件ですが、どうなりました?」
店長は去年から置いてある雑誌をめくってた。
「あー、明日 面接に来ますよ」
引き出しから履歴書を出し
「ちょっと、年いってますけどね」
と見せてくる。
店長や俺よりも年上で、頬の痩せた男の写真が貼ってあった。
「すいません。無理言います」
「主任も働き通しですからね。ちょっとは休んでもらわないと。あー、店長の募集も出しとくかな?ハハハハ」
不自然に大きな笑い声を出していたが、顔はそれほど笑っていなかった。
働き通しで足が痛かったし、時折 腹が痛む。
僅かな金額だが、新しいバイトの方が俺より時給が安く済む。当分、出費は増えるだろうが、長い目で見れば、経費を抑えられるだろう。
しかし店長は目の前の出費を気にし出してきた。
翌日、面接に来た男を採用して、しばらく教え 俺は出勤時間を減らしていった。大事なとこはパートのオバチャンや長期のバイトがやってくれる。店長も暇を持て余している。男も要領よく、悪く言えば適当に仕事を覚えていった。
どこかヘラヘラとして、機嫌を取ってくる男を俺はあまり好きにはなれなかったが、店長とはウマがあったらしく休憩室で、よく楽しそうに笑っていた。
アパートへ帰る途中、腹が痛みだしたが、すぐに治まり 足を引きずり帰る。
廊下では、そこが自分の寝床のようにアル中が寝ている。
最近 機嫌がいい時がないのか、声を掛けてくる事は無く、睨む様に見てくるか寝ているか どちらかだった。
「まりあ、ただいま」
声を掛け、手と顔を洗う。鏡の顔を見る。顔色がよくない。写真立てに口づけ、マンガを手に取った。随分と増えたもんだ。
まりあが帰ってきても、文句は言われないだろう…………帰ってくれば。
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