「彼女さんに怒られますよ」
「…これだけ待ちぼうけをくらってるんだ…少しくらいなら大丈夫だろう」
アベちゃんはじっと写真立てを見つめている。
「けど…こんな可愛い顔して怒ると恐いからな…」
そう言って写真立てを伏せてから、肩を抱きそっと こちらに向かせる。アベちゃんはじっと こちらを見てくる。
少し顔を近づけると、不意にアベちゃんの唇が吸い込まれるように口の中に引っ込んだ。
唇を引っ込めたまま笑う。顔を近づけていっても、じっと俺を見つめてくる。
俺はそのまま口づけた。
唇を引っ込めた口に…
柔らかくて、みずみずしかった…
顔を離すと、引っ込めたはずの唇がそこにあり、アベちゃんはじっと俺を見つめたままだった。
唇が少し動いた。
俺は唇を寄せ アベちゃんの唇に触れた。
柔らかくて、みずみずしい。
唇が僅かに触れる程度で何度もアベちゃんの唇を俺の唇で突ついた。
目を開けたまま、じっと俺を見つめている。
何度も突ついて顔を離すと、まだじっと俺を見つめいる。
照れ臭くなり
「卒業おめでとう」
と言うと
「ありがとう」
と言った口を尖らせて、今度はアベちゃんが俺の唇を突つきだした。じっと俺を見つめたまま。
何度も何度も突ついてから、顔を離すアベちゃんがニッコリと笑う。
俺を見つめたまま、何か言おうとしたアベちゃんに俺は顔を近づけていく。
アベちゃんは俺の唇に合わせ顔を傾け、少し唇を開いて目を閉じ 俺の唇を受け止める。
俺の唇が動き、アベちゃんの唇も動き、長い間 深く強く口づけあった。
写真立てを起こし
「お幸せに」
とプリクラに向かって言い アベちゃんは部屋を出て行った。
アベちゃんは東京へと旅立って行った。
「お幸せに」とアベちゃんは言ったが、アベちゃんも思っていただろう…
何処にいるのだろう?…何をしているのだろう?…何を思っているのだろう?
俺にもわからない…
アベちゃんが帰った後、まりあのプリクラを見つめたまま考えた。
まりあ…いったい何処へ行っちまったんだ?何をしてるんだ?風邪ひいてはないか?ちゃんと食ってるか?
口づけようと思ったが、プリクラのまりあが怒ってるように見え やめた。
俺にはわからない…
何処にいるのか…
わからない……
この世にいるのかも…
まりあ 《転》 終
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