「私、忘れっぽいんです。だから想い出の品もすぐ無くしちゃうんです。…私、わがままなんです。向こうで友達出来たら、こっちのみんな忘れそうなんです。…でも主任の事は忘れたくないんです。……私、自分勝手なんです。自分の事はいつまでも覚えてるんです。……だから…初めての人は一生覚えていると思うんです………それが主任だったら…て思ってました」
とても長いようにも思えたし、一瞬のようにも思えたが、
しばらくの沈黙があった。
突然アベちゃんは手をついて 体を俺から離してニッコリ笑い
「あ~スッキリした。これだけは言っておきたかったんです。主任との最後が…あんな風に終わるの嫌で…ちゃんと気持ち伝えたかったんです…ちゃんと伝わりました?私ちゃんと言えてました?」
小さく頷くと
「あ~緊張したー」
と舌を出して肩をすくめた。
アベちゃんは立ち上がり、テレビの前で写真立てを見つめながら必要以上に明るく振る舞い言う。
「可愛い人ですね。主任とお似合いですよ」
俺もアベちゃんの横に立ち写真立てを眺めた。
「変な化粧してるだろ?素顔は可愛い顔してるのに、もったいない」
「え~、そうですか?この化粧も可愛いですよ!主任もしたら、もっとお似合いになりますよっ!」
「バカな…」
またしばらく二人で写真立ての中にあるプリクラを眺めてた。
アベちゃんは、とても穏やかな笑みを浮かべていて、俺もとても穏やかな気持ちになった。
「毎日、ここにキスしてるんですか~?」
プリクラを指差し、からかう様に俺を突ついてくる。
「あぁ…」
答えるとアベちゃんは写真立てを手に取り、そこに口づけた。
「間接キス…ウフフ」
穏やかに笑い、舌を出した。
今日アベちゃんが俺に会いに来るのに、それなりの覚悟をしてきたのだろう……おそらく…お気に入りの下着をつけて、何度も髪を直し、鏡の前で何度も確認して、大人になる決心をして……
俺の事は忘れてもいい、大事な処女は他の男にあげればいい、ただ…アベちゃんの気持ちに少しは答えてやりたかった。
「キスはあるのか?」
アベちゃんは写真立てを見つめたまま、顔を横に振る。
「初めての唇に触れてもいいか?」
アベちゃんは、じっと写真立てを見つめている。
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