アベちゃんは真剣な眼差しで俺を見つめ
「お久しぶりです」
と頭を下げ
「お願いします。最後にドライブして下さい」
と 又、頭を下げた。
車はアパートの近くにある。
俺は足を庇いながら、ゆっくりと歩いて行く。アベちゃんは一歩後ろを寄り添うようについて来る。アパートの前まで行くとアベちゃんの足は止まり、離れて俺を見てくる。
「まぁ上がれよ」
「えっ?…でも…」
アベちゃんは立ち止まったまま動かない。
「彼女…さんが…」
「心配ない。襲ったりしないよ」
無理に腕を引きドアまで連れて行く。
廊下でアル中が厭らしい目で俺達を見ていたが、無視してドアを開け中へ入り
「ただいま」
と声をかける。
アベちゃんも申し訳なさそうに
「お邪魔します」
と言い、キョロキョロしながら後について来た。
座布団を出し、アベちゃんが座ると、俺はいつもの様に口づけてから台所へ行き お茶の用意をしながらお菓子を探した。
アベちゃんは立ち上がりテレビの前で、じっと見ていた。
テレビの上にある、俺が毎日 口づけている写真立てを。
部屋に戻るとアベちゃんは座りお茶を飲んでから聞いてきた。
「彼女さん…ですか?」
そうだと答えると
「若いですね」
と冷やかしてくる。
「10年以上前だからな…当時でアベちゃんくらいだよ」
写真立ての中には、変な化粧をして笑っている まりあのプリクラが1枚入っていて、あの時と変わらず、いつまでも俺に笑いかけてくれている。
アベちゃんは何と言っていいのか戸惑い、またお茶を飲んだ。
俺は簡単に説明してやった。
「知り合ってからは長いが 付き合いだして すぐに行方が分からなくなった」
と。
アベちゃんは聞いてくる。
「愛してるんですか?」
「あぁ、これまでも…これからも」
「もう…会えないんですか?」
「さぁな…待ち続けるしかない」
アベちゃんはお茶を眺めてたが、ポツリと言った。俺になのか自分になのかは解らなかった。
「愛って…切ないですね……」
テレビをつけてからはアベちゃんは色々と無駄話をしてきた。高校生活の事、これから行く大学の事、店での事、友達の事、色んな想い出を楽しく話してくれた。
最後に上着を脱ぎながら
「主任との最後の思い出が欲しいんです」
と言って、俺の胸に顔を埋めてきた。
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