マリア 《転》序章
視界に無機質な部屋が見えたが、すぐに視界は消えた。
次に見えた時には、病院だと解ったが、体の痛みに耐えきれずに、またすぐに視界が消えた。
目が覚めるとベッドの横で医者やら看護婦が何か喋っていたが、窓の外ばかり見ていて聞こえてこなかった。
俺が入院してる間、わずかばかりの人が見舞いに来た。
最初は会社の上司が
「申し訳ないが、退職してくれないか」と言いに来た。
次はアパートの管理人が、迷惑そうな顔で修理費の請求書を置いていった。
俺の部屋のドアは壊され、中はめちゃくちゃにされていたらしい。
最後に刑事が来て、色々聴いてきたが、分からないとだけ答えた。
刑事がチンケな男の名刺を見せてきた時も、分からないと答えた。
刑事は俺よりも何もかも知っているようで、形式的に質問だけすると、帰り支度を始めドアへ歩いていった。
一人の刑事が戻って来て、またチンケな男の名刺を見せ
「この子の事は知ってるか?」
と言って名刺を裏返した。
名刺の裏には
まりあ
と書かれていた。
いつもの癖なのか ご丁寧に、あんな名刺の裏にも自分の名前を書いてあったみたいだ。
俺は外を見た。
刑事は俺より まりあの事も調べてあるのだろう。
俺の返事に興味もなさそうに一言だけ言って帰って行った。
「この子の行方が、わからん」
と。
松葉杖をつけるようになると、医者が止めるのも聞かずに退院して、街中を歩き回り まりあを探した。携帯の番号以外 何も知らなかった。その番号が入った携帯すら無くなると、ただ宛もなく街中を歩き回るしかなかった。帰る家も無くなった俺は何日も何日も探し、途中で松葉杖が折れ、這いつくばって探したが、まりあは どこにもいなかった。気配すら無くなってしまった……
まりあ…
まりあ……
まりあぁぁぁーーー
もうこの街に居る必要が無くなった。
俺は この街を去った。
全てが無くなった。
薄い財布の中にある、シオリ代わりにしていた、一枚のプリクラ以外は…
マリア 《転》序章
終
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