まともに顔面に食らい よろめく俺にヤツの拳が何発も飛んでくる。
視界に拳が見えたと思えば、俺の顔を殴り飛ばし 右の白い雑居ビルの壁が視界に写り、すぐさまヤツの拳が左の錆び付いたドアに視界を移す。何度も俺の視界には、ヤツの拳が見え白い壁が写り、ヤツの拳が見え錆び付いたドアが見えた。
頭を掴まれたかと思うと、一瞬 地面が見えてからヤツの太い膝が迫り 曇った空が見えた。
倒れた俺を持ち上げ ヤツの口が笑い大きな歯が目の前に見えたが、すぐに白い壁が目の前を覆い、少し離れて また白い壁が目の前を覆う。
何度も壁が俺の顔にぶつかり、白い壁が赤く滲んできた。
ヤツの手が離れ、視界がフラフラと揺れ ビール瓶が顔面に迫ってくるのも見えずに、地面に叩き伏せられた。
視界に赤い筋が流れている。
その視界の端に まりあが見えた。
まりあも地面に転がされ蹴られている。
まりあ……今…行って……やるぞ…
すぐに視界からまりあは消され、ヤツの顔が目の前一杯に広がった。
口元がなにやら動いていたが、何も聞こえなかった。
また何度もヤツの拳やら膝やらが視界に飛んできた。
視界にはビルの壁が上へ延びている。低いビルの壁がそびえ立つように見え、その先の曇った空から ぼやけた雪が落ちて来ていた。
突然 視界が遮られた。
遮ったものが、静かに空へ昇っていったが、すぐにまた俺に迫り 視界を遮り また空へ昇っていく。ヤツの靴底のように見えたが、視界が歪みよく解らなくなってきた。
俺の横でヤツは何度も足を上げ降り下ろしている。
…まりあ 今………
助けて やる…ぞ…
なんとか這いつくばり、前を見た。
赤い雪が降っている。
視界が全て赤くなっている。
その先に まりあの姿が見える。
ボロボロになった まりあが髪だけを掴まれ 車の中に放り込まれた。
車が走り去ると、俺の背中に重い衝撃が乗り掛かり、俺の口から吐き出される液体が地面に広がっていくのを見たのを最後に、俺の視界は消え 意識もなくなった。
まりあ………
まりあ………
まり……あ………
それを最後に俺とまりあの物語は終わった。
マリア 《廻》終
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