大人になった少女は小気味いい寝息をたて寝ている
俺も そのうちに眠りに入った
夢を見た
檻から出て野原を掛けていた少女が笑いながら手を振って ありがとう と言っていた
そして さようなら と消えていった
俺は頷いてやった
よかったな
笑えてよかったな
俺の役目が終わった…
少女も 大人になった少女も 自由に飛び立てばいい 俺の膝から羽ばたき飛んでいき もう戻って来なくてもいいぞ
ありがとうな…
幸せになれよ…
朝の陽射しが差し込み始めた頃 俺の腕の中にあった温もりが そっと抜け出していき ベッド脇でバッグを開け身支度をして やがて気配が消えていった
俺はまどろみの中
そうだ…それが正解だ…会いに来てくれて ありがとう 幸せになれよ…
と呟き また眠りに落ちた
いつもの目覚ましの音で眠りから覚めた
ベッドには長い髪の毛が1本と少しの残り香だけが残っていた
あの時のような悲しい別れは嫌だ そっと消えてくれて助かった
もう少し…この温もりが消えるまで寝ておこう…
不意に目覚ましが止まり 俺の肩が揺すられた
「朝だよ、起きて」
俺は振り向いたが よく見れなかった
陽射しだけのせいではなく それ以上にまぶしい笑顔が そこにあったから
「朝ごはん作ったから、食べよ」
「帰らなかったのか?」
大人になった少女は 俺を見詰め 微笑みながら答えた
「私の帰る場所は
ここだもん」
不思議だな
あの少女に全てをあげたはずなのに
また愛が湧いて出てくるよ…
あぁ 絵を完成させなければ…
引き出しの奥にずっと 仕舞っていたんだ
男と女の子が手を繋ぎ 男は楽しそうに笑っていて 二人の上では魔法のハンカチが揺れているんだ
あの女の子の顔に やっと書き入れてあげれるよ
笑った目と口を
これで完成だよ…
楽しそうな絵だな…
よかったな
笑えて
ずっと笑っていこうな
俺と一緒に
ずっと いつまでも
笑っていこうな……
「うん」
プロローグ∈猫∋
完
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