俺と柿畑穂子は小学校低学年からの付き合いで、しょっちゅう一緒に遊んでいた。特に家が近所というわけではなく、親同士が仲がいいわけでもなく、いわゆる幼馴染とは違うのだけど、なんとんなく遊ぶようになって、なんとなく話すようになって、なんとなくつるむようになっていた。
3年生の夏に、ホーコが友達の女の子を連れて遊びに来た。二人より三人の方が色々遊べたので俺は大歓迎だった。それ以来その子も一緒に遊ぶようになって、結局つるむようになった。その女の子が由希子なのだ。
でも由希子はどちらかというとホーコの友達であって、俺との直接的な交流はあまりなかった。だから3人でよく遊んでいたにもかかわらず、由希子とはいつも微妙な距離を感じていた。その距離がぐっと詰まったのが小学校キャンプ事件なのだけど、その詳細を語ることは許されていない。
ホーコは気さくな奴なので、つい男友達みたいに扱ってしまうのだけど、実はかなりの美形である。38歳と言えば男も女もすっかり中年化している年齢だけど、ホーコはここ数年、見るたびに若くなっていて、知らない人からは20代だと思われている。
いったいどんな魔法を使っているのか知らないが、なんとも羨ましい奴だった。なんであいつが独身のままなのか不思議でならない。言い寄る男はいくらでもいただろうに。
そんなだから、さっきの亜季からのおばさん扱いで表情が大いに曇ったのがあからさまに見て取れて、ちょっと心配になった。
『すまなかったな。でも気にするな。婆さんと言われなかっただけ良かったじゃないか。あいつらにとっては女子高生でもオバサンなんだから悪あがきはよせ』とメールすると、
『えー何の話?気にしてないよー、ぜんぜん気にしてないよー、アキちゃんだっけ?可愛いねー、すごく可愛いねー、今度会ったら背後から全力で襲っちゃうかも~(-_-メ) 若くて素敵な花屋のおねえちゃん(生娘)より』と返ってきた。
ぜんぜん気にしてるじゃねーか!ってか(生娘)とか付けてくんな!
本当にやりそうだから怖いんだよ、こいつは。
当然といえば当然なのだけど、ホーコと由希子は全然違うタイプだった。
長身で目鼻立ちのくっきりしたホーコは、普通に歩いていても目立っていたと思う。体育と音楽以外は苦手で、怒るとすぐに暴力をふるうという、わかりやすいバカだった。
対して由希子は、地味で大人しい優等生タイプのくせに、他のグループとの喧嘩なんかの時には、真っ先に先陣を切るという『血の気の多い』バカだった。俺もホーコも『待て!由希子!』と何度叫んだことか。
但し、由希子の武器は拳ではなく口だった。頭脳明晰で本の虫だった由希子の言葉の攻撃は、下手な暴力よりキツかった。大抵の奴は追いつめられて逃げ場を失い、泣きながら由希子に殴りかかるという行動パターンをとるので、そうなって漸く俺とホーコの出番になる。結局は由希子の尻拭いをしてただけなんだと随分後になって気が付いた俺も、大概バカである。
向こう見ずの暴走型で頑固者で成績優秀。えげつない悪戯なんかも平気でやっちゃうくせに、妙に正義感が強くて弱い者イジメを強く嫌った。色んなことを感心するほどよく知っていた割に、いまいち思慮に欠ける残念さが、由希子の可愛さだったんだと思う。
※元投稿はこちら >>