――第56話――
部屋に戻ると、タカはコトリを胸に抱えたまま、倒れるようにベッドに横になった。
灯りをつけることさえ億劫なほど疲れ、気持ちは、ひどく滅入って仕方なかった。
当たり前だ。
自分の女が、自らの意志で他の男の元に走ったのだ。
複雑な気持ちにならないはずがない。
これからどうすべきかを自問した。
だが、どんなに悩んだところで答えなんてひとつしかないのだった。
ずっとコトリは泣きじゃくっていた。
この幼い少女から母親を奪うことなんてできるはずがない。
コトリのためにも、なんとしてもシホを取り戻さなければならない。
タカがやるべきことなど、初めからひとつしかないのだった。
コトリは、いつまで経っても泣きやみそうになかった。
泣きじゃくるコトリの頭をずっと撫でていた。
撫でているうちに、ふと、悲しげに笑ったシホの顔が脳裏に浮かび、唐突にその恐怖は取り憑いた。
シホは、自らの意志でタカの目の前から消えた。
あの男の呪縛から逃れることができず、タカを捨てる道を選んでしまった。
あれほど可愛がっていたシホはもういない。
そして、あの男が狙っているのはシホだけじゃない。
もし、このコトリまで失うことになってしまったら・・・。
そんなことを考えていたら胸が潰れるほどに苦しくなり、居ても立ってもいられなくなって、力の限りコトリを抱きしめていた。
奪われたくない思いが、タカから理性を剥ぎ取った。
衝動的にコトリを裸にしていた。
突然乱暴に裸にされて怯えの目を向けるコトリを腕の中に閉じこめた。
するつもりはなかった。
ただ、コトリの体温を感じていたいだけだった。
圧するように小さな身体を腕の中に閉じこめた。
いやらしく身体中をなでまわし、無言のままに誰にも渡さないことを教えた。
苦しさに逃れようとすれば、どこまでも追いかけて、また閉じこめた。
太い腕に閉じこめられ、喘ぐように苦しいと訴えるコトリの唇を塞いで黙らせた。小さな頭を鷲掴みにして、長く伸ばした舌でひたすら口を犯しつづけた。
ずいぶんとコトリには苦しい時間であったと思う。
コトリは泣いた。
泣いたが抵抗はしなかった。
シホがいなくなったことで、タカが怒っているとコトリは勘違いしたのかもしれなかった。
贖罪の気持ちが、コトリに抵抗させなかった。
やがて、腕の中に閉じこめたコトリが声を殺しながら泣いているのに気付いて、タカの中から、ようやく荒ぶる気持ちが消えていった。
こんな子供になにをぶつけているのかと自分を鼻白んだ。
確かにコトリを奪われたくない気持ちは強かった。
だが、そこには、むざむざとシホを奪われてしまった自分に対する不甲斐なさへの怒りもあった。
やり場のない怒りまで、まとめてコトリにぶつけていた。
情けないと、自身を笑った。
タカの吐く息から荒々しさが消え、小さな頭を愛しげに撫でられて、ようやく許してもらえたと思ったのか、コトリのほうから胸をあわせて縋るようにしがみついてきた。
何度もタカの胸に頬ずりを繰り返し、そのときになって初めてタカは、コトリも同じ気持ちであったことに気がついた。
目の前で母親を失ったのはコトリも同じことだ。
そして、コトリは同様にタカがいなくなってしまうことを恐れていたのだ。
甘えるように頬ずりを繰り返すコトリは、どこにも行かないでと訴えているようだった。
タカはコトリのあごを持ち上げた。
ぐっしょりと頬を涙に濡らしていたコトリは、憐れなほど唇を震わせ、縋るような瞳でタカを見つめていた。
胸が詰まるようなコトリの泣き顔に、タカはわざとらしく微笑むと優しくキスをした。
そんなことしかできなかった。
ギュッとしがみついてきたコトリに、タカもまた、同じ気持ちであることを教えるように抱きしめた。
今度は優しく抱きしめた。
股間は痛いほどに張り詰めていたが求めなかった。
いいの?と、目にいっぱい涙を溜めたコトリが心配そうに訊いてくれたが、タカは首を横に振った。
今夜はこの腕の中にいる愛らしい宝物を汚す気にはなれなかった。
胸に伝わる温もりのありがたさを心ゆくまで感じていたかった。
腹の上にコトリを乗せたまま、タカは静かに目を閉じた。
ふたりは、そのまま泥のように眠り、そして、朝になって目覚めたふたりは、それは不思議なほど、ごく自然と体を重ねてひとつになった。
コトリは初めてその日、その幼い膣にタカの精液を受け止めたのだった。
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