――第47話――
小さな口から放たれた、ものすごい悲鳴。
鼓膜が破れるどころか頭蓋骨が割れるかと思った。
「うぉおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」
咄嗟に耳を塞いでも、まだ頭の中に響いてきやがる!
超音波兵器かよっ!
タンとハツは、悲鳴を上げながら床の上を転げ回った。
「誰だ、お前ら!」
やっと悲鳴が止んだときには、コトリがベッドの上で仁王立ちになっていた。
「こ、こら、おとなしくしろ!」
コトリを捕まえようとハツが咄嗟に掴みに掛かる。
「ごへっ!」
途端に顔が仰け反り、悲鳴を上げた。
下から思いっきりあごを蹴り上げられていた。
「なにしてんだバカ野郎!」
タンが腕を広げて捕まえようとしたが、容易くかわされ、するりと逃げられてしまう。
なんて、すばしっこいガキだ。
「お前ら、ドロボウだな!うちには盗るようなおかねなんて、どこにもないからね!」
自慢になるか、ガキ!!
コトリは寝室から逃げ出して、今度はリビングテーブルの上に仁王立ちになっていた。
「いい子だから、おとなしく来い!」
タンが凄んでみたが、まったくの無駄。
「コトリ、いい子じゃないもん。」
怖がる様子もない。
「さっさと捕まえろ!」
二人がかりで追いかけた。
リビングは狭い上に、テーブルやイスが邪魔をして、なかなか捕まえられない。
おまけに、ふたりとも大男だから、肉厚の身体が邪魔をしてうまく回り込めない。
加えてコトリの並外れた身体能力。
ようやく追い込んで両側から挟んで捕まえようとした。
タンとハツが呼吸を合わせ、1,2で突っ込んでいくと、いきなりコトリの小さな身体が消える。
上に跳んでいた。
目標が不意に消えて、目の前にあったのは互いの顔。
たいそうな勢いで飛び込んでいったものだから避けようがなかった。
ごつっ!と派手な音がして、目の前に火花が散った。
タンとハツが床の上で悶絶しているところに、上から聞こえてきたのは「バーカ」と勝ち誇ったコトリの憎まれ口。
「このガキ!!おとなしくしねえと、ケツ引っぱたくぞ!!」
「あら?SM?ちょっと興味あるかも。」
どこまでませたガキなんだ。
目の前にあった足を捕まえようとタンが飛びかかるも、たちまちコトリの姿は消えてしまう。
くるりと一回転して、コトリの身体は手の届かないところに。
テメエは、猿か!!?
「ハツ!入口塞いどけ!!」
退路を断って追い込むことにした。
ハツが鼻を押さえながら、逃げ出さないように玄関口に立ち塞がる。
これなら逃げ出せまい、とタンが余裕の笑みを浮かべたのもほんのわずかのこと。
笑みを浮かべたのはコトリとて同じ。
どちらかといえば、こっちのほうがずっとズルくて悪どい顔だった。
ニヤリと笑ったコトリが、玄関を塞ぐハツに向かって照準を合わせる。
ああ?
だんっ!、とコトリが床を蹴った。
構えたコトリを訝しむ暇もなく、あっという間に小さな身体がハツの目の前に跳んでくる。
「あちょーーー!!!」
ものすごい跳躍力。
鋭く突き出していた片足。
速過ぎて反応する暇もなかった。
「ごわっ!!」
コトリのかかとが、ものの見事にハツの顔面にめり込み、100キロを超す大男が玄関を突き破って豪快に吹っ飛んでいく。
「ハツ!!」
慌てたのはタンだ。
「このガキャぁぁっっ!!!」
怒りに我を忘れて飛びかかったところでアウト。
コトリにひょいと身体をかわされ、おまけに足まで引っ掛けられて、タンも勢いそのままに外に転がりだした。
「コトリちゃんを舐めんなよ!!!」
廊下の手すりの柵に引っ掛かって、重なるように尻餅をつくふたりの目の前で、勝ち誇ったように立っていた女の子。
顔の愛らしさにすっかり騙された。
タンもハツもすっかり忘れていた。
ふたりを見おろしていたのは確かにツグミの娘だが、同時にあの方の落とし胤。
そう、こいつは間違いなく、あの人類最強ティラノサウルスの娘。
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