――第49話――
パールピンクの車体が流れるように国道を走っていく。
いや、流れてたのは他の車だけ。
やたらと追い越していく車の多かったこと。
ハンドルを握っていたのは、将来の女性警察官シノちゃん。
文武両道、才色兼備な大和撫子は、制限速度だってちゃんと守れる、しっかりとした良い子。
気持ちは、わかるんだけどね・・・。
まあ、遅かったこと。
制限速度40キロって、こんなに遅いものだとはじめて知ったよ。
あまり大きな声では言えないが、日頃からこの倍の速度で移動していたオレ。
ちょっとした新鮮な驚きだったね。
おかげで新しい牛丼屋ができたことも知ることができたわ。
感謝、感謝。
なんて思うわけない。
市街地を走っていた。
病院からレンのマンションまでは、およそ車で20分の距離。
ただし、オレが運転していれば、の話し。
すでに病院を出てから20分以上が過ぎていたが、レンのマンションには、まだまだ辿り着けそうにない。
遅かったのはシノちゃんの性格もあるが、やたらとその日が混雑していたせいもある。
日頃はそれほど混まないはずの国道に、なぜか車両が溢れて所々渋滞していた。
それから5分ほど走って、ようやく理由がわかった。
道路脇で他車を威嚇するように回転していたパトライト。
それも1台だけじゃない。
ずらりと列を成していた真っ赤な回転灯。
なんだ、あれ?
近づくにつれ、はっきりと見えてきたのは蛍光塗料で書かれた「ご協力ください」と「検問」の大きな文字。
検問?
市街地の出入口付近に緊急配備線が敷かれていた。
車道の端にすべての車が誘導され、当然、オレたちもその列に並ぶことに。
順番が来て、近づいてきた警官にシゲさんが訊ねた。
「何かあったんですか?」
対応した警官は顔見知りだったらしく、相手がシゲさんとわかるなり、いきなり直立不動になった。
それを見ていた周りの警官も、シゲさんに気付いて慌てて姿勢を正す。
シゲさん、すげっ!
「すいません。子供の誘拐がありまして車両検索を実施中です。誠に申し訳ありませんが、重丸先生もご協力ください。」
「それはかまわないが、誘拐とは穏やかじゃないね。」
「はっ、本日19時頃、仙台インターサービスエリアで6歳の女の子が行方不明になりまして、その少女を乗せたと思わしき車両が、ここから数キロ離れたインターチェンジで下りたとの情報を得て、現在捜索をしているところです。大変申し訳ありませんが・・・。」
「ああ、わかったから、早く調べてくれ。ちょっと急いでるんだ。」
「はっ!申し訳ありません!失礼します!」
ここでも春雷重丸の異名は健在だな。
シノちゃんが、ラゲッジドアのロックを外すと、複数の警官が後ろを調べはじめた。
しかし、誘拐とは穏やかじゃない。
「怖いわね・・・。」
シノちゃんが、不安そうな顔をしていた。
大丈夫です。
あなたを狙うのは、よほどのアホか自○志願者しかいません。
ハンドルを握る美しい才女は、剣道の現役女子大学生チャンピォン。
ふと、シノちゃんの横で、シゲさんが怖い表情になっていることに気が付いた。
しかめっ面をして、なにかを考えた顔をしている。
「シゲさん、どうしたの?」
シゲさんは、しばらく黙ったままだった。
「いや、なんでもない・・・。」
返ってきたのは素っ気ない答え。
あ、そ。
そうは見えないけどね。
「ありがとうございました。」
2分とかからずに、検問から解放される。
それから、またドン亀ドライブの始まり。
ようやくレンのマンションに辿り着いたのは、病院を出て1時間近くも経ってから。
やっと再会できる我が愛車。
車から降りようとしたときに、ちょうどシノちゃんのケータイが鳴った。
※元投稿はこちら >>