「あっ…、ああ…」夢中になり過ぎたのか、彼女の存在に気付かなかった。急いでズボンを直そうとしたが焦りと気不味さで手が震えた。チャックもベルトも上手く直す事が出来ないのだ。それに、既に現場は見られている。「すっ、すみません…」そんな言葉を出すのがやっとである。「茂坊…焦らんでええ。なんも見んかった。誰にも言わんから。」そう言いながら、ほうきと塵取りを持って床に散らかる土を集めていた。気遣いのつもりだろうが、現場を視認された事は間違いなかった。ただ、恥ずかしさだけが残る。今すぐにでも逃げ帰りたい気分である。「そこの戸閉めろ…」開きっぱなしになっていた納屋の出入口の戸を閉めた。納屋の出入口は一箇所とは限らない。便宜上、二箇所、三箇所とある。気不味い沈黙が漂う。土を掃きながら尋ねてきた。「茂坊も歳頃だ…何も言わね…何見てた?」ある程度は理解をしてくれているのだろう。怒ったり、注意したりなどはなかった。ただ、僕にとっては取り調べに遭っている状況だ。言われるがままにスマホを取り出すとそれを手渡した。おばさんは、それを受け取ると待受け画面を見た。再度、暫くの沈黙が訪れた。「これを見てたんか?」おばさんが僕に聞いてきた。その画面には本人の画像が写っている。「う、うん…」蚊の鳴くような返事を返すと項垂れていた。
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