智恵に聞いた話は意外な顛末だった。
夫の逢っていた相手が身籠ったのだ。
義両親はその事実を歓び、事を荒立てることなく出来るだけ穏便にことを進めることにした。
智恵に多額の慰謝料を渡し自ら身を引いてもらう。
まさに名家の名を傷つけることを恐れた姑息なやり口だった。
しかし智恵はそれを受け入れることにした。
それなりのゴタゴタを覚悟していた智恵にしてみればすんなり離婚出来るだけで十分だった。
愛情や信頼もまるで無い、あの家から解放される、、、
それだけで良かった。
「でも、、、少し複雑な気分かな、、、」
美術館へと向かう道を並んで歩いていた。
「そうでしょうね、、、」
「結果的に、あの家の思った通りになったのがね、、、」
しかし智恵の横顔はやはり美しく清々しかった。
「でも自由になれた、、、こうしてまた高村くんに逢えた、、、」
今はとりあえず実家で暮らしながら新たな住まいを探しているようだ。
「でも、、、また美術館なんですね、、、」
「あら、嫌だった?」
「いいえ、、、そんな、飛澤さんと逢えるならどこでも、、、」
「今日はどうしてもまた高村くんとこの道を歩きたかったんだ、、、」
この日は美術館でグッズも買った。
お揃いのキーボールダー。
二人で選んだ。
帰り道も並んで歩く。
「本当にあの頃を思い出すわ、、、」
「この道を、、、好きだった人と歩きたかったんですよね?」
「そうだよ、、、こうしていろんな事を話しながらね、、、」
まだ想い続けているのだろうか?
それとも単なる淡い思い出なんだろうか?
ふと手が触れ合う。
そしてそのまま智恵がその手を握ってくる。
「こうして手を繋いで歩くのが夢だったんだ、、、」
前を向いたまま智恵は言った。
思わず胸が締め付けられる。
「俺は、、、代役ですか?」
智恵は応えることなく話を続けた。
「彼は年下だったの、、、でもわたしよりずっと大人で、、、こうして手を繋いでいたら、、、キスされちゃうのかなって想像してた、、、」
彼女はまだその男のことを、、、
だが譲る気は無い、、、
もう誰にも渡さない。
立ち止まり両肩を掴む。
智恵が驚いたように見上げてくる。
躊躇することなく唇を奪う。
フレンチキス
切れ長の瞳が見開かれれる。
唇を離し抱き締める。
「高村くん、、、人が見てるよ、、、」
横を人が通り過ぎていく。
そんなことどうでもいい。
「代役でも、、、俺は飛澤さんが好きです、、、」
熱く見つめる。
もう逃げない。
「そうじゃ無い、、、違うんだよ、、、代役なんかじゃない、、、高村くんが好きだったの、、、」
「えっ?」
「ウソじゃない、本当だよ、、、」
腕の中で智恵が告げる。
「ずっと、、ずっと好きだった、、、」
歓びが込み上げる。
頬を染めた智恵が見上げてくる。
カイトが顎クイをする。
「また、、、スルの?」
「スル、、、」
瞳が閉じられる。
再び唇を重ねる。
智恵の両腕が背中に回される。
ためらいがちだった智恵の舌が絡みついてくる。
情熱的に口づけを交わす。
二人は熱く見つめ合い手を繋いで歩き出す。
その手は恋人繋ぎ。
つづく
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