「えっ、今?」
その意外な言葉にあさみは戸惑った。
だが、このまま昭翔と別れるのもなんだか物足りない気がしてきて、
「いいわよ、陽奈は居ないけど。」
少しドキドキしながら、昭翔を家に入れた。
「ちょっと散らかってるから、あんまりジロジロ見ないでね。」
昭翔をリビングのソファに座らせ、買ってきたものを片付け、コーヒーを入れた。
昭翔にコーヒーを出したまでは良かったが、何を話せばいいのか言葉が出ない。
すると昭翔が、
「おばさん、全然変わらないッスね〜、若くて可愛らしいし。」
昭翔に言われ、あさみは少し照れながら、
「こら、おばさんをからかわないで。いくつだと思ってるの。」
「いや、まだ全然イケますよ、俺、全然OK。」
そう言われると、ドキドキして意識してしまった。
それから、昭翔は地元の大学に進学したこと、夏休み中はバイトをしてること、そして、今彼女らしい人はいないこと等、昭翔に関する色々な事を聞いた。
「そう言えば、あっくんに「けっこんする」って言われたんだっけね。」
すると昭翔は、
「今日なんか、その事言われると思ってました。恥ずかしい〜。」と照れている。
そして少し考えてから
「おばさん、一緒に写真撮りません?」
「えっ、私と?ダメよ、そんな恥ずかしいわ。」
「いいじゃないッスか、久しぶりに会ったんだし。おばさん変わってないから一緒に撮りたいんだけど…ダメッスか?」
少しガッカリしたような顔の昭翔を見ると、断るのも悪いかな、と思ったあさみは写真を撮ることを承諾した。
昭翔はあさみの隣に座り、顔を寄せてスマホを自分達に向けた。
昭翔の身体があさみにピタリとくっつき、顔もすぐ近くまでに近寄っている。
いきなりの行動にあさみの胸は一気に高まった。シャンプーなのか香水なのか、昭翔からいい香りがする。
「いいッスか?1、2、3!」
カシャ、と音が鳴り、昭翔が画像を確認している。
「あ〜、おばさん、表情固いよ、もう一回!1、2、3」
「ねぇ、お母さん、今日なんかいいことあったの?」
夕食を食べながら、陽奈が問いかける。
「えっ、何もないわよ。」
「そう?なんか機嫌いいみたいに見えたからさ。なんかあったのかと思って。」
そんなつもりはなかったが、昭翔と一緒に過ごしたことであさみはご機嫌だった。
一緒に写真を撮ったあと、
「写真いります?じゃあ、送るんでライン教えてください。」
と言われ、昭翔とラインを交換していた。
アイコンは何かアニメのキャラなのだろう、そこに「あきと」とあった。
あさみはまるで若返ったように、気持ちは浮かれていた。
それからしばらくして陽奈は下宿先に帰っていった。相変わらず夫とはろくに会話もなく、家の中は静かだった。
「あっくんとライン交換したけど何もしてないし…こっちから送るのも…」
そんな事も重なり、あさみは悶々としていた。
それから数日後、昭翔とのラインの事は気にならなくなり、あさみは普段通り過ごしていた。今日も仕事終わりにスーパーに買い物に寄った。
商品の棚の前で調味料を探していると、
「わっ!」といきなり昭翔が現れ、あさみを驚かそうと声を出した。
「きゃっ!あ、あっくん!?何してるの?」
いきなり声をかけられ、振り向くと目の前に昭翔の顔があり、あさみの心拍数は一気に上がった。
「おばさんが店に入るの見えたから、追いかけてきたら、なんかびっくりさせようと思って笑」
悪気なく笑う昭翔を見て、あの頃と変わらないな、そう思いながらも、
「あんまりおばさんをからかわないでね、もう歳なんだから…」
「そんな、まだ全然ッスよ、こんなに可愛いんだし。俺、イケると思いますよ。」
「イケる、って私でもいい、って事?」
昭翔の言葉に、あさみはそう思い意識してしまった。そして、顔が赤くなってるのを隠すかのように背中を見せて歩き出した。
その後を追いかけながら昭翔が、
「俺も帰るんで、途中まで一緒に行きましょうよ。俺持ちます。」
そう言って買い物カゴをあさみの手から取った。
「大丈夫よ、持てるわ。」
「いいからいいから。」
そうして買い物を終え、2人は家に向かって歩き出した。
夏も終わったというのに、今日はだいぶ暑かった。買い物した荷物を持っている昭翔も、暑いっすね、と言いながら少し大変そうだった。
そして、あさみの家に着いた頃に、昭翔は汗まみれになっていた。
「ごめんね、おかげでこんなに汗かいちゃったね。」
「いや、でも今日は特別暑いっすね、夕方になると急に涼しくなるんですけどね〜」
あさみは少し思いとどまりながらも、
「少し涼んでいく?」と声をかけた。
「いいんっすか?そうしたいな、って思ってたんですよ笑」
そしてまた昭翔を家に迎え入れた。
冷房をつけるがすぐは涼しくならない。昭翔はシャツの襟元をパタパタ動かし、少しでも涼しくしようとしていた。
額からはまだ汗が滴り落ちてきている。
「あっくん、まだ暑そうね。軽くシャワーでも浴びる?」
あさみが言うと、昭翔は驚いた顔で、
「えっ…、いいんっすか?」と答えた。
変な風に思われたかな…そう思うあさみだったが、昭翔は安心した顔をして、バスルームに向かった。
バスルームからシャワーの音が聞こえる。
「シャワーを浴びて、なんて変に思ったかしら…もしかして誘ってる、って思われたりしてないかしら…」
「もしも、誘ってる、って思われたらどうしよう…」
昭翔を意識していたためだろうか、そんな事を思い始めた。
やがてシャワーの音が止まり、しばらくして昭翔がリビングに戻った。
その姿は上半身裸だった。
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