黒田あさみは車を走らせていた。
今日は娘、陽奈の小学生の時の同窓会だ。大学に進学して初めての夏休み、陽奈は帰省していた。そして、駅前のキッチンカフェでの同級会に出かけ、小学生時代の同級生と、懐かしい思い出話に花が咲いているのだろう。
同窓会が終わってから、何人かでカラオケに行きたいから、と送迎をお願いされていた。
「誰が一緒に行くんだろ?みんな、大きくなったんだろうなぁ…。」
そう思いながら、車を走らせた。
待ち合わせの場所に行くと陽奈が手を振っている。
あさみは車を降りて、話しかけた。
「えぇ〜、みんな大人っぽくなったね!
明日咲ちゃん?すごく大人っぽくなったね!あれ?劉生くん?あんなに小さかったのに1番大きいじゃん!」
あさみは、子供達の変化を、まるで自分の同級生かの如くはしゃいでいた。その中に、ひときわ目立つ男の子を見つけた。
今時の子らしくスラッとしてるが、肩幅も広く、小顔の端正な顔立ちには見覚えがあった。
「もしかして…あっくん?」
それは娘の陽奈と小学校に入る前に、アパートの隣に住んでいて、中学に上がるまでよく家族ぐるみで会っていた昭翔だった。
「おばさん、お久しぶりっす。」
と、彼は今時の子らしく軽く挨拶した。
「えっ、えっ!あっくんなの?!すごく変わっちゃったね〜。」
昭翔が幼い頃、あさみは、
「おばちゃんとけっこんする!」と、プロポーズされていた。
以前から、昭翔の事はやんちゃで、それでいて甘えん坊な所に愛おしさを感じ、陽奈以上に可愛がっていた。
小学生に上がるタイミングで両家とも引っ越してしまったが、中学に上がるまではよく遊びにきていた。
夜になり、カラオケから帰った陽奈と話していた。
「みんな大人っぽくなったねぇ〜。あっくんもすごく変わってイケメンになって。」
「なあに、お母さん、昭翔カッコよくてメロメロになってんの?」
「だって、あっくんにプロポーズされたのよ、私。」
久しぶりに旧友と楽しい時間を過ごして、いつもよりもご機嫌な陽奈よりも、あさみの方がワクワクしていた。
それから陽奈が小学校の卒業アルバムを持ってきて、それを2人で見ていた。
アルバムを見ながら、
「お母さんって、昭翔と会うのは卒業式以来?」
「ん〜ん、中学の入学式。この時とあんまり変わらなかったでしょ?」
そう言ってあさみは、アルバムの集合写真指さす。
写真には少し身体が大きくなってきた陽奈と昭翔が写っていた。
「陽奈はあっくんと付き合ったりしないの?
「ずっと一緒だからさぁ、友達以上にはならないよ。」
「そうなの?」
陽奈はクラスに気になる人がいたのだが、あさみには内緒にしてた。
あさみは、まだあどけなさが残る昭翔の写真を見ながら、先日の成長した姿を思い浮かべていた。
数日後
あさみは週4である会社の事務のパートをしていた。
自分の駐車場がないので、職場までの歩いて30分ほどの距離を歩いて通い、帰り道にあるスーパーで買い物をして帰るのが日課だった。
その日もスーパーに向かっている途中で、
「そうだ、お米も買わなくちゃいけなかったんだ…。」
買い物袋の他に、5キロの米を持っての帰路は、なかなか大変なものがあった。
「失敗したなぁ…、せめて、自転車で来ればよかった…。」
そう後悔しながら、重い荷物を持って歩いていた。
すると後ろから、
「おばさん?」と声をかけてくるものがいた。
あさみが振り返るとそこには、昭翔がいた。学校帰りなのだろう。
「えっ?あっくん?どうしたの?」
「友達んち寄った帰りッスよ。」
そういう昭翔は、あさみの持ってる荷物を見て、「持ちますよ。」と手を出した。
大丈夫、と断るあさみの言葉等聞こえないかのように、スムーズに荷物を取った。
「ありがとう…。」
なぜかあさみは照れていた。
「家まで持ってきますよ。どうせ家帰るついでなんで…」
そう言う昭翔に断ることもできたのに、なぜか途中まで一緒にいれる、という期待感の方が勝ってしまい、あさみと昭翔は歩き出した。
「あっくん、陽奈ともよく遊んでるの?」
「はい、たまにだけど中学の時の仲いい連中とカラオケとか。陽奈から聞いてないッスか?」
「そういうことは言わないのよ。」
そんな話をしていると、急に昭翔が笑い出した。
「?」不思議な顔をするあさみを見て、「あ、すいません…、なんか
あっくん、って久々呼ばれたからおかしくて…。そう呼ぶ人、もういないから…」
あさみは、自分が昭翔の事を、「あっくん」と呼んでいたことに、不快にさせたと思い、
「あっ、ごめんね!小さい頃のまんまのつもりでいちゃって…。いやだよね。」
「いや」
あさみの言葉を遮るように、昭翔が声をあげた。
「そのままでいいッス。おばさんだけ。」
「いいの?じゃあ、あっくんのままで」
そう言って2人は笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりだ。
正直、陽奈が家を離れてからのあさみの家の中は静かだった。
夫とはあまり会話もない。毎日帰りも遅く、すれ違いの夫婦だった。
なんとなく、夫は浮気している、あさみは女の勘でそう感じていた。
しばらくして家に到着し、
「ここでいいわ。あっくん、ありがとね。今度、また遊びにきてね。今週いっぱいは陽奈もいるから。」
あさみがそう言うと、昭翔は
「今、お邪魔しちゃダメッスか?
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