後日
ある日、社内がざわめき立っていた。
何事かと同僚に聞くと
「お局様が妊娠したんだってよ!」
「彼氏いたんかあの人!」
「婚活してたんか〜」
そんな話題だった。
そうなると当然、俺は部長に呼び出されるわけで。
「彼女、父親は君だって言っているんだが」
なるほど。
しばらく肉便器扱いして、飽きたから着拒や既読スルーをかましていたが、そういうブーメランできたか。
「いやいや。そんな訳ないじゃないですか」
「でも、君しか考えられないと」
「むしろそういう関係なった経緯聞きました?」
「まぁマッチングアプリで出会って、それからーー」
真希主任はバカ正直に話したらしい。
さすがに俺が強引にっていう話はしていないみたいだ。
「会社の部下とマッチングアプリで出会うなんて、そんなアホみたいな話ないっすよ」
「まぁ確かにな。俺も部下とマッチングアプリなんておかしくないかと聞いたんだが、ほんとに偶然だと必死でね」
「まぁ、俺も若いしマッチングアプリくらいはしますけどね、さすがにお局様は遠慮しますよ」
「ははっ。だよな。でも、そうなると父親は誰かって話だなぁ」
部長はお局様よりも少し上の年齢。
つまりは、マッチングアプリというよりも出会い系という認識であろう。
ならばーー
「ハッキリ言って、若い人間はマッチングアプリに抵抗ないし、婚活とかもありえますけど、真希主任の年齢じゃ、マッチングアプリというより出会い系という認識でやってたんじゃないですか?」
「あ〜~そうだよな。マッチングアプリなんて言葉で誤魔化されているけど、つまりは出会い系だよな」
「で、悪い男に引っかかって、逃げられちゃったか」
「ん〜~」
「真希主任、独身だから男遊びをして、避妊失敗しちゃって、ヤケクソで俺に擦り付けたんじゃないですか?」
「俺も⋯⋯そう思った」
「ここは毅然と対応しないと、部長も父親って騒がれちゃいますよ」
「俺が?まさか!」
「いや、現に俺が巻き込まれているわけですし」
「⋯⋯⋯⋯」
部長は真剣な顔になる。
「わかった。ありがとう。一応は関係者と思われる人間には話を聞かないといけなかったから」
「いえ。部長も気をつけてくださいね」
「だな」
結局、社内からハラスメント気味だった真希主任に味方する者はなく、必死に俺にされた事を大声で叫ぶ真希主任には、社内の風紀を乱すということで自宅リモートワークを命じられた。
実質の謹慎処分である。
そのまま真希主任は辞めていった。
そしてある日、また女と遊ぼうかと思い、マッチングアプリを眺めているとーー
『後がありません。現在、妊娠後期ですが、結婚してくれる男性募集中です』
という真希主任かどうか分からない女を見つけ、俺はそっと退会ボタンを押すのであった。
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