瑞稀のところに通い詰めて、今日で5日目。
事実上の情夫と化している敦也は、未だ瑞稀の気の向くまま奉仕をさせられることに慣れないでいた。
背中は肩甲骨の辺り、前は胸の辺りまで伸ばした艶のある黒髪。
目の下までの長さがある前髪を左右に分けて、綺麗に額を見せている。
人柄を知らなければ一見して気難しそうに見える彼女の切れ長の目は、睨まれたら寒気がしそうなくらいに鋭い印象を相手に持たせる。
でも彼女と会話を交わせば人当たりは柔らかく、話をする際も表情を変える目元で印象がガラリと変わる。
理路整然と言葉を選んで語る瑞稀のその喋り方からは、小説家というよりも学者を彷彿とさせる。
決してユーモアのない人間ではないけれど、冗談をいうのは得意ではなく、むしろ話を聞いて笑うほうが性に合うらしい。
瑞稀の人間性を知れば知るほど彼女なりの人間臭さはある意味において、魅力的に感じる。
それ故に最初は奉仕をさせられたり身体を差し出すことに、激しい拒絶感に悩まされたものだ。
それがどういうわけか最近は、瑞稀の力になりたいという気持ちになるのだから不思議だった。
こうして彼女の歴代の担当者たちは、瑞稀の魅力の虜になっていったのだろうか………。
瑞稀が手掛ける作品はそろそろ佳境を迎えつつあり、彼女の股の間に顔を埋めた一昨日を最後に、昨日は1日中をペンを走らせることに彼女は没頭していた。
今日の瑞稀は黒いキャミソールをインナーにして薄手のワンピースを身に纏い、広く開た胸元を覗かせている、
シースルー素材を使った半袖の肩からは白い肌を透けさせて、そのさり気ない大人の艶かしさを振りまいて敦也の目のやり場を困らせた。
特に敦也を誘惑しようとの意図はなく、その程度のデザインは世の中に溢れている。
ワンピース自体も膝が見える程度の長さで、夏の衣類としては何ひとつおかしくもない。
ただ瑞稀に関わってこの数日間に体験した出来事から、瑞稀の落ち着いた声、何気ない所作、何から何まで性的な魅力を帯びているように感じてしまう。
まるで女性教師に憧れを抱く、中高生のようだと敦也は自分を卑下してうんざりする気持ちを必死に落ち着かせようと、努力が必要だった。
携帯に着信があり、静かに部屋から出る。
進捗具合を知りたがる上司に報告を入れ、短いやり取りを終えて敦也は部屋に戻った。
どうせ部屋を出たのだから気を利かせて瑞稀のためにコーヒーでもと、知らない人ならば思うだろう。
ここ数日で分かったこととして、瑞稀はペンを走らせている間は気を使われることを嫌うということだ。
だから同じ部屋にいる間、瑞稀が用意した飲食物とトイレは自由にと彼女は敦也に言ったのだ。
見ていないようで彼女は敦也の動きに敏感に気付き、把握している。
きっと居眠りをしていることも気付いているはずなのに、静かなのは好都合とばかりに黙認しているに違いない。
不意に瑞稀がペンを置き、深い溜息をつく。
彼女が煮詰まったときの、態度だった。
いま彼女が書いている作品は、主婦と若者の禁断の関係を描くもの。
数々の作品を世に出してきた瑞稀をしても、産みの苦しみはあるらしい。
彼女は小手先の技術だけで書き進めることを良しとせず、リアリティで読者の心を掴んできた。
苦さも甘さも口にしないものは想像の域を出ることはなく、洞察力にも限界はある。
そんなときの瑞稀はまるで明日の予定でも聞くように、敦也に驚くようなことを言ってくる……。
ねぇ、ちょっと協力してくれるかしら………?
若いんだから、頑張れるわよね………?
こんなことを言う瑞稀は決まって敦也を真っ直ぐに見ながら、顔を薄っすら上気させていた。
今日は、何をさせられるのだろう…………。
僅かな恐怖心と期待が、敦也の股間に血流が集まる感覚を意識させていた…………。
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