浩司は、クリニックでは集中治療室のことを「愛の部屋」と呼んでいることを知っていた。
浩司が待合室で美咲の診療が終わるのを待っているときなど、他の奥様がナースに呼ばれることがある。
「では山田さんの奥様、愛の部屋にどうぞ…」
「は、はい…」
名前を呼ばれた奥様は、耳元まで真っ赤になり、他の奥様たちから羨望の眼差しを浴びながら扉の向こうに消えて行く。
「お疲れ様でした」
「あ、ありがとうございます…」
その入れ替わりに「愛の部屋」から出てくる奥様は、言い方は悪いが、浩司から見て、さほど容姿端麗とは思えなかった女性でも、集中治療を終えた後は自信と幸福感に満ちあふれて、内面から美しく変貌を遂げており、浩司も激しく勃起して、あやうく射精してしまいそうになるほど性的に美しく光り輝いて見えるのだ。
そんな治療が、家庭の主婦や母親たちの間で秘かな話題をよび、クリニックでは予約待ちなのだという。
もちろん、男性である浩司には「愛の部屋」でどんな集中治療が行われているのか、知る由もない。ただ、複数の経験豊富なナースやボランティアの美しいレズビアンたちが参加し、極上の性的セラピーが繰り広げられているらしいことだけは浩司にもうすうす分かっていた。
美咲にたずねてみたこともあるが、「ごめんね、男性には教えてはならない決まりなの。でもね、みんな美しい方たちばかりだし、あんな経験させられたら、どんなに夫想いの奥さんだってもう、同性のことしか考えられなくなるわ…」と目を潤ませながら、「実際、私の知り合いの奥様たちも、みんな女性を愛するレズビアンになってしまったの…ときには一緒に愛の部屋に入ることもあるくらいなのよ…」と、何かを思い出したように顔を美しく赤らめるだけなのだった。
いずれにせよ、クリニックでは単なる性的快楽を与えるだけでなく、女性の性的感受性を極限まで高め、彼女たちの心の奥底に眠るレズビアンの情熱と、美しい同性に対する性的欲望を解き放つことによって、女性たちを最高の幸福と快楽に導き、その夫の人生まで劇的に変えていることだけは間違いなかった。
そして今、目の前ではクリニックの院長であり、浩司にはあれほど冷徹だった加奈子が、恋する乙女のように頬をピンクに染め、美咲の待つ「愛の部屋」に向かおうとしているのだ。
(まさか、これから加奈子さまは、愛の部屋を舞台に、美咲に…?)
しかし浩司はこの時、なぜか加奈子のことを初めて「加奈子さま」と、敬意を込めて呼んでいる自分に気づいた。不思議なことに、浩司にはそう呼べるようになったことが何となく嬉しかった。
その想いは、すでに妻の美咲に対しても同じだった。オナニーするときだけでなく、日常生活でもつい「美咲さま」と敬語で呼んでしまい、戸惑ったことがあった。ショッピングモールでの買い物のときだった。
「ご、ごめん…つい…」
「ううん。浩司さんが望むなら、これからは日常的にもそう呼んでも良いのよ。私もうれしいわ…」
美咲も、浩司の成長を優しく受け入れてくれて、最近の浩司には、夫婦のこの主従関係がごく自然なことに思えるのだ。
浩司には、その美咲のレズビアンの恋人である加奈子までたまらなく美しく、性的な存在に見えた。いや、むしろ崇拝の対象なのだ。自分のような卑屈な変態夫より、どこまでも美しく気高い加奈子さまこそ美咲の性のパートナーとして相応しいのではないか…そう思い始めてしまうほどに。
本人はまだ気付いていないが、クリニックの勃起治療(加奈子と美咲による射精コントロール)の結果、浩司は、美しいレズビアンカップルである加奈子と美咲を、自分よりはるかに上位の存在として受け入れ、彼女たちに性的にも精神的にも支配されたいという服従願望を抱き始めていたのである。
もはや自分は完全に蚊帳の外であるにも関わらず、後ろ姿の加奈子の腰高な尻や、白いふくらはぎが、浩司にはため息が出るほど眩しかった。
(おおっ、加奈子さま…なんとお美しいっ…!)
浩司はまたしても勃起していた。敗北者であるはずの浩司は、これから美咲を寝取るであろう勝利者…加奈子の美しさ、性的な魅力に思わず見惚れていたのだ。浩司は、加奈子の美麗な後ろ姿を盗み見ながら、卑猥に勃起したマゾペニスを今すぐにでもしごき立てたい気持でいっぱいだった。
「浩司さん?さっきからどこを見ているんですか?いやらしいっ…」
「す、すみませんっ…」
ナースから声をかけられて、浩司はハッとして恥ずかしさに縮こまった。
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