家を出てから40分が過ぎた。
ウォーキングを始めてから1ヶ月半……。
新陳代謝が良くなったのか15分ほどが経つと、体が汗ばむようになってきた。
結婚してまだ3年なのに、最近スキニージーンズがキツくなってきたのだ。
体重はほぼ変わらないのに、下半身が一回り太くなったというか……。
まだ32歳だというのに、運動不足かしら……。
お風呂上がりに気になる太腿の後ろ側に手を当てて、お肉を絞るようにしてみたら……。
なんと肌の表面がボコボコとなって、浮き出ているではないか……。
何とかという脂肪細胞の塊らしいという知識はあり、テレビの情報番組で見たことがある。
まさか自分がそうなっていたなんて、ショックでしかない。
だから始めたウォーキングだったのだけど、3キロ体重が落ちただけで、肌のボコボコは無くならないのだ。
調べてみたら外的刺激、つまり手で肌を絞るように揉み込まないと脂肪細胞は破壊されず、無くならないと分かって思わず遠くを見ていた……。
自分で出来ることと言えば入浴時、お湯に浸かりながらひたすら気になる部分のお肉を揉み解すというもの。
幾らかの効果はあったように思う……。
それでも素人の自分には限界があり、真っ先に思い浮かんだのはエステサロンという言葉である。
清水千尋はお金の面、その他のことを何だかんだと考えた。
やっぱり自分には敷居が高く感じる……。
どうしよう………。
バスタブに浸かりながら、溜息が出た……。
休みのこの日は早朝に続き、午後もウォーキングに出ていた。
汗で程よく湿ったジャージ姿で自宅付近まで帰ってきた千尋に、ひとりの綺麗が女性に声を掛けてきた。
半年前に開業したのだと、彼女は笑顔でチラシを手渡してきた。
千尋が見たチラシは、会員制のエステサロンだったのだ。
………会員制と言っても、小さなお店なんですよ。
一回の料金も業界としては、リースナブルにさせて頂いております……。
確かにこれなら美容院代と変わらない。
注目すべきは3回まで無料だというから、千尋は飛びついてしまった。
だって、彼に嫌われたくないのだから………。
朝の通気電車に揺られ、駅から颯爽と歩く。
体にフィットしたグレーのパンツスーツが千尋によく似合う。
彼女の着る白い襟なしのシフォンブラウス、その白い肌の胸元をネックレスさり気なく彩る。
一番乗りかと思っていたのに、先を越す同僚がすでに着ていた。
後輩であり同僚の若い彼はニコリと笑って、千尋に挨拶をする。
……おはようございます、早いですね……。
千尋 貴方のほうが早いじゃない……。
千尋は笑顔で彼に、挨拶代わりの皮肉を返す。
棚の一番上の資料を取ろうとして、背伸びをする千尋の肩越しに彼の腕が伸びる……。
偶然なのか意図的か、千尋の背中に彼の体が密着してお尻に彼の下半身が当たった……。
普通なら問題になりかねないこんな遊びをいつからか、お互いに楽しむようになっていた。
分かっている……。
既婚者の自分と独身で後輩の彼と噂になったら、とんでもないことになる。
だんだん露骨になる彼の悪戯には、千尋が欲しいと彼の意思が感じられる。
自分はどうなのか、彼の悪戯を拒絶しない時点で答えは出ているのだろう……。
彼のプッシュにいつまで耐えられるのか、自身がない。
肌のボコボコした脂肪細胞の塊のセルライト、それを除去し始めたのは然るべき日に備えてのことにほかならない……。
がっかりされたくない、綺麗な自分を見てもらいたい………。
一線を越すその日は近い、千尋はそんな予感がするのだ。
だからエステを急がなければいけない……。
千尋 ありがとう……。
無表情で礼を言った千尋だが、お尻にしっかりと彼の硬いモノの感触が残っていた……。
まったくどうして朝から元気なのかしら……。
他に考えることは無いのかと呆れてしまう。
でも同時に千尋の体の芯が、熱くなる……。
もう、朝からやめてよ……。
体の熱を冷ましたくて、わざわざ脱がなくてもいいジャケットを脱いで椅子に掛ける。
自分のディスクでパソコンを開いていた彼の元へ千尋はいくと、彼の肩越しに書類を渡してみせた。
千尋の着る薄手のシフォンブラウスは白色……。
柔らかな素材で特徴的な生地の薄さ、それは容赦なく身に着ける者の下着を透けさせてしまう。
故に保守的な価値観の日本においてはインナーを着なければならず、千尋もキャミソールを身に着けている。
それでも薄いブラウス、薄いキャミソール、二重に覆われたその下のブラジャーが曲者だったりする。
確かに下着の姿形を隠す一応の目的は完了する。
けれど触れられる者に、その感触は露骨である。
千尋はパットレスブラジャーをわざと身に着けて着たので、乳房の感触は彼にとってどうなのか。
結果は彼の反応を見れば、一目瞭然である。
今までは自分が千尋に股間を押し付けたり、胸板を背中に押し付けて動揺をひた隠しにする千尋を見て喜んでいたのだ。
勿論ある種、2人だけの信頼関係があってのことだけれど……。
今回はじめて千尋からアプローチをされて、飛び上がりそうになった。
なんて柔らかいんだ………。
肩にマシュマロのような感触が、今も残っている……。
千尋は相変わらず無表情で自分のディスクに戻り、仕事の準備をはじめる……。
もう心は決まっていた。
まだ3年なのに、結婚生活はもうマンネリ化を迎えていたのだ。
夫は真面目で良い人だけれど、あっちのほうがとにかく弱いのだ。
はっきり言ってしまえば、とにかく早い……。
おねだりして2回目をしても、やっぱり早い。
千尋が満足したことは、1度もないのだ。
自分は淡白な方だと思っていたけれど、実はそうでもないと結婚してから気付くなんて……。
夜の旦那がしつこくて疲れたふりをしなければならないと、そうまでして嘘をつかなければならない友人が今は羨ましい……。
夫に体を鍛えるように言ってみたけれど、理系の人間だから所詮は長続きはしないのだった。
サプリだの何だのと試させたけれど、みんな無駄に終わった。
そのうち夫は寝たふりをするようになり、千尋を悲しませたのだ。
子作りどころの話では、もうなくなっている。
他に不満はないけど、仕方がないではないか……。
そんな時、後輩の熱い視線に気がついたのだ。
可愛いしいい男だけれど、歳下には興味が持てなかった千尋だが………。
階段を踏み外しそうになった千尋を彼は、咄嗟に腕を掴んで力いっぱい引き上げてくれたのだ。
千尋は反動で彼の胸に収まり、抱き止められていた……。
久しぶりに胸が高鳴った。
着痩せするタイプだったらしく、筋肉質で胸板の厚さにドキドキさせられた……。
その日から彼の稚拙で可愛い悪戯が始まったのだ。
可愛いと感じた時点で、彼に好感があったのだろう。
人妻なのを知っている筈なのに、チャレンジャーだなと初めは千尋も面白がっていた。
帰りの満員電車の中で、彼に抱きしめられるように守られて頭がボ〜っとなってしまった。
それからボディタッチが増えてきた。
それが彼からのアプローチだと千尋も気付いていたけれど、一線を超える勇気が出なかった。
そして今日の帰り、彼に唇を奪われてしまった。
その瞬間、千尋の心の中で何かが弾けた……。
駅を出て建物の陰の暗がりで、激しく唇を重ねていたのだ。
その先を欲しがる彼を宥めるのが、大変だった。
千尋だって、彼が欲しい……。
でも、まだだ……。
完璧なボディで、そうなったら………。
帰宅して興奮冷めやらぬままシャワーを浴びる。洗い流されて泡が消えると釣鐘型の乳房が現れ、その乳首をはっきりと勃起させていた。
思わず下半身に手を伸ばしかけて、千尋はその手を引っ込める……。
まだ駄目よ、彼にしてもらうんだから……。
明日のエステに備えて、しっかり体を洗った。
明日の外出前にもシャワーを浴びるのに、隅々まで洗い流す。
何回通えばセルライト、落ちてくれるかな……。
彼と迎えるその日を夢見て、千尋はもう一度体を泡まみれにする。
自分のそこを洗い流す時、指先にヌルッとした感触を覚える……。
きっと泡よ、そうに決まってる………。
千尋はそう自分に言い聞かせ、体に纏わせた白い泡を洗い流していった………。
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