悪夢と言うべきか、夢のような出来事だったと言うべきなのか……。
恵子の心の中の振り子がどちらに傾こうが、自分では手に負えない状況に陥ることになるのだろうか……。
前者ならば、心療内科に通院せざるを得ない……。
後者ならば、もう引き返せなくなる………。
良識や常識 、もっといううのなら道徳心の観点でことことに向き合うのなら自分を許せなくなるだろう……。
それならば自分の内なる欲望に逃げ込めというのか………それでは人として女として、どうなのか…。
元来の真面目な性格が、気持ちの置きどころを探して彷徨よう時間が流れていく……。
半年近くが経ったある日、恵子の姉から電話があった。
姉 ねぇ恵子……うちの子、今度のお祭りに連れて行ってくれないかな?……
聞けば以前から基地のお祭りに連れて行く約束をしていたらしく、子供が楽しみにしていたらしいのだ。
だけど義理の兄は急遽仕事で行けなくなり、姉はぎっくり腰で動けなくなったという……。
正直なことをいえば休みの日くらい、恵子だってゆっくりとしたい…。
でも姉の頼み、可愛い甥っ子のためならと仕方なく姉の頼み事を恵子は快く引き受けた。
恵子たち夫婦には、子供がまだいないのだから。
よくある航空祭みたいのものかと思ったのだけれど、着いてみれば陸上部隊とでもいうのだろうか。
災害時にも出動することもあるらしく、有事の時に出動する特殊車両や機材が展示されているではないか。
訓練と称したデモンストレーションや飲食のできる出店など、目を輝かせて興奮をする甥っ子。
その中でもレンジャー部隊の催しに、甥っ子が釘付けになった。
迷彩柄の小さなテントとえばいいのだろうか、人1人か2人がちょうど入れる程度の大きさしかない。
有事の際にゲリラ戦になったときに必要らしいが、そんな事態になったときを思うとゾッとするけれど………。
甥っ子はそれを体験したくって、子供たちの列の後に恵子の手を引っぱる。
何のことはない、小さなテント状の中で小さく開けられたスペースから双眼鏡で遠くを見て、偵察するというものらしい……。
目をキラキラさせて自分の番が回ってくるのを待っていた甥っ子だけど、すぐに飽きるのが子供。
自分の番が目前になってから横の特殊車両に目移りして、体験乗車ができるとあって走って行ってしまった………。
その偵察コーナーの展示は人気がないらしく、最後の体験者が終わったら撤去となることだったらしい……。
はい……お次の方………隊員の方がテントの中から顔を出したときにはもう、甥っ子は隣りに移っていて隊員の目には大人の恵子が立ち尽くす姿が映っていた……。
恵子 あの……ごめんなさい、甥っ子が………
動揺する恵子の視線の先にいる男の子を見て、何やら隊員は察して言った。
隊員 あぁ……気になさらないでください……
それじゃぁ、貴女が体験なさってみませんか?……
そう言われた恵子だったが、その隊員をよく見てから時が止まったようになった。
彼も同じだったようで、恵子の顔をよく見て顔を強張らせていた……。
そう…その隊員は黒田拓海、その人だったのだ…。
あの鍛えられた逞しい体、濃密な官能の時間が一気に思い出される……。
上官らしい男性が2人を見咎めて、何やら勘違いをしたようだった。
上官 黒田、このご婦人に体験して差し上げなさい………
どうも女性だからといって、差別するようなことをするなということらしい……。
自分たち国を守る者に興味を持ってくれるのがたとえ女性だとしても、知ってもらいたいのだ。
もちろん上官は恵子と拓海の関係など、知る由もない………。
拓海 はいっ!………失礼しました、こちらへどうぞ……中でご覧ください………
断れる雰囲気ではなくなり、恵子はテントの中に入った。
後で上官が拓海に耳打ちする声が、聞こえる……。
上官 失礼のないようにしっかり体験していただけ………後で報告を待っているからな……
そう拓海に釘を刺すと、上官は隣の特殊車両の方へ歩き去っていく………。
上官に目をつけられてしまった拓海は、恵子をあっさりと追い出すことができなくなってしまった……。
恵子もそれを察して、適当なところでテントから出られなくなってしまった……。
それをすれば彼は上官から叱責を受ける………それを考えたら出られるはずがないではないか……。
拓海 びっくりしました……貴女がここにいるなんて………
僕がここにいると、ご存知だったんですか?……
恵子 偶然です……貴方がこういう職業に就いているなんて、あたしが知ってたとでもいうの?………
拓海 いえ、そういわけじゃないんですけど……
そうですよね……失礼しました……
気不味い沈黙が、2人の間に流れる………。
拓海 あの、せっかくいらしたんです……ここら
覗くんです、どうぞ……
恵子は渡された双眼鏡を手に、拓海に教わりながら双眼鏡を操作する……。
あの辺りを目標にするとか、訓練では丸一日この中で偵察活動をするのだとか、飛んでいる鳥を追って……だとか、国民の知らないことを拓海に教わった。
ただ覗き見るだけでも大変なのだと、恵子はいつの間にか興味深くなっていた。
そもそも普通の人が双眼鏡を手にする機会なんて、バードウォッチングとか登山者とか、そう多くはない。
拓海 僕らは訓練で見るから見方は違いますが、一般の方なら慣れてきたら面白いでしょ?……
恵子 えぇ……あんなに遠くにあるものがこんなに近く見えるなんて、凄いわね………
拓海 でしょう?……もっとここをこうすると……
狭いテント内である、嫌でも体が密着する……。
彼は意識せずにしていることだが、分かっているのだろうか…………。
自分が密着する相手は一度、体を重ねた女性であるということを失念している事実に………。
恵子の脳裏に過去の出来事がフラッシュバックする……。
拓海の下半身が恵子のお尻に密着し、体温が伝わる……。
男の体臭が漂い、恵子の中で何かのスイッチが切れ代わるのを自覚していた……。
あぁだこうだと説明する拓海に受け応えしなくなった恵子に気づき、拓海はハッ……っとなった……。
そんなつもりはなかったのだ……。
ただ説明をしていただけなのだ。
あり得ないことだが、これが女性隊員ならば間違いが疑われないように神経を使っただろう……。
今日は一般人を迎えてのお祭りであり、もっと気を配るべきだった……。
目の前にいる女性は、あのエステティシャンなのだから………。
そう思うが早く、ペニスに血流が集まるのを自覚して動揺する拓海………。
カーキ色の服装の下、拓海の背中に汗が流れ落ちるのを感じていた………。
お尻にハッキリと硬いモノがあるのを、恵子は感じていた……。
心臓の鼓動が早くなる……。
双眼鏡から覗く景色、木の枝に鳥が止まるのを見るともなしに見ていたが、神経は勃起した男根に向けられている……。
彼の手が下から這い上がり、恵子の乳房を包む。
服の上から優しく揉まれ、布ズレの音がやけに大きく聞こえる……。
スカートからブラウスが引き抜かれ、入ってきた彼の手がブラジャーをずらして直に触れてきた。
乳首を摘んでクニクニと指先で揉みほぐし、指の腹で硬くなった先端を優しく転がす……。
恵子は双眼鏡の先に見える鳥が、枝から飛び立つのを眺めていた……。
ただ少しだけ開いた唇から自分でも知らず知らずのうちに熱い吐息が漏れる、そんなことにすら気づけない………。
欲情が加速していく………。
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