青く広い空、遠くには濃い緑の山々が見える。
辺り一面には田園と、広大な畑が豊かな土の香りが風に運ばれてくる。
先祖代々住み続く土地には築100年近い屋敷。
その庭は広く、3代に渡って付き合いのある庭師たちが腕を振るっている。
屋敷にはお手伝いさんがいて、家族同様の庭師と共に幼い頃はよく遊んでくれた記憶がある。
お転婆だったから広い屋敷の中、庭の植木などで隠れん坊をしたものだった。
幼い自分はある日の午後、お昼寝から早めに目覚めてしまった。
お手伝いさんにかまって欲しくて、台所に向かったのだ。
台所に立つお手伝いさんの背中が見えると、いたずら心が芽生えた。
茶箪笥の一番下、子供がひとり隠れられる大きさの引き戸を開けて中に隠れたのだ。
お手伝いさんが側を通ったら驚かそうと思って、ワクワクしながら………。
ところがなかなか上手くいかず、引き戸を少しだけ開けて外の様子を覗い見たのだ。
そこにはお手伝いさんのスカートの中に頭を入れた庭師の姿があり、何をしているのか分からないながらも一部始終を見ていた。
お手伝いさんは目を閉じて優しい顔………今思えばあれは恍惚としていたというのが正しいのかもしれない……。
頭の形に膨れたスカートの前を両手で抱え、苦しそうな表情になるお手伝いさん……あれは感じていた?………が、顎を上げて口をパクパクする不思議な仕草を見せていたことを覚えている……。
別の日、植木を手入れする庭師を何気なく見ていた。
彼らの仕事ぶりを眺めることが、子供ながらにも格好よかったからだ。
ちょうど大人の腰の高さになったツツジ。
その表面を丸くカットする作業の庭師に、お手伝いさんがお盆に乗せた冷たい麦茶を運んできた。
それを一気に飲み干す彼を前にして、お手伝いさんの姿がいきなり消えたのだ。
正確にはしゃがみ込んだのだけれど………。
しばらくして、庭師の様子が変わった……。
お手伝いさんのときに似ていて、恍惚としだしたのだ……。
お転婆な自分は怖いもの見たさで彼らに気付かれないように植木の陰に隠れ、その様子の一部始終を覗き見た……。
いけないことをしている………。
幼い子供にはその程度の認識しかなかったけれど、何がどういけないのかまでは知らない……。
だけどオシッコが出る場所だということくらいは分かる。
お手伝いさんはそこに顔を密着させるようにして、何やら懸命に頭を動かしているようなのだ。
タブー視されることほど、子供はしたくなるというもの………。
彼らの真後ろから移動して斜め後に陣取った。
どういうわけか、男の人のアレを口に咥えているではないか……。
お手伝いさんのときはスカートに隠れて見えなかったけれど、台所では彼女が同じようにされていたらしいと、そのときに悟った。
幼くても女の子のほうが、マセているから……。
極めつけは蔵の中で見たアレだった……。
そこの2階は大切な物を隠せる、自分にとって誰にも見つからない秘密の場所だったのだ。
クッキーの缶に入れた玩具の指輪を眺め、蓋を閉じると人が入ってきた気配に息を潜めた。
すると……はぁ……はぁ……という息使いが聞こえはじめ、その様子をそっと覗うとあの2人なのだ。
お手伝いさんは悩ましい声を出して、台所で見た同じことをされて……。
今度はスカートが捲り上げられていた。
ハッキリとお手伝いさんのそソコに顔を埋めている庭師が見えて、その衝撃といったら……。
その後は理由がわからなかった。
お手伝いさんのお尻に庭師が腰を打ちつけたり。
片膝を持ち上げられて壁に寄り掛かるお手伝いさんに、同じように腰をぶつけたり……。
高校を卒業すると大学進学に伴って、上京した。
就職、結婚した今でもあの時々の光景を夢に見る……。
名字が水原に変わった恵子は、38歳になっていた。
あの庭師とお手伝いさんは上京する時に、笑顔で見送ってくれた。
だけど、目がどこか笑っていなかったいように見える。
今は庭師のほうは老人ホームに入居し、お手伝いさんは未だ現役で実家に奉仕してくれている…。
後に知ったことに、お手伝いさんは子供が産めない身体だったことで天涯孤独の身なのだと恵子は知った。
庭師は妻帯者だったから不倫だったのは間違いない。
叶わぬ恋だと解りながら、せめて身体の温もりで心の隙間を埋めていたということなのか………。
彼らは恐らく分かっていた。
いつからか知っていたのかは、検討もつかないけれど……。
たぶん自分に対して目だけが笑っていないと感じはじめた頃………あの辺りなのかもしれない。
幼い子供に目撃されていると知った上で…………。彼らは情事を重ね続け、目で圧力をかけていたのだろう。
絶対に親に言うんじゃないぞ、と………。
数年前に帰省した際、恵子は彼女に言った。
未だ自分に対し、どこかよそよそしいからだ。
今さら過去のことを明るみに出そうなんて、思ってはいない………。
あの頃は幼かったから……そんな理由で自分の行動を正当化するつもりもない……。
だからといってあなた達がしていたことを認めるつもりはないけれど、糾弾するつもりもない……。
今さら公にするつもりはない……。
だからあたしに対してそんな目で見るのは、もうやめて………。
彼女はそれ以来、穏やかな婆やに変った。
やっと肩の重荷が降りたように…。
子供の手が離れたことで、恵子はまた働きに出ようと決めていた。
これから子供には、いくらでもお金がかかるからだ。
選択肢はいくらでもあるようで、意外とそうでもない。
スキルを生かすならば、やはりエステティシャンしかない。
パート、希望報酬で検索する。
あった、しかも希望以上の報酬が貰える…。
ひとつだけ懸念材料はあるけれど……。
応募から面接までトントン拍子に進んだ。
残念なことにレディース部門のほうは埋まってしまい、メンズ部門しか残っていなかった。
迷わなかったといえば嘘になる。
けれどもこちらのほうが報酬が高く、レディース部門に空きが出て希望するならそちらに移ってもいいと言ってもらえたのだ。
そこに来てアンケートである……。
事前に理由を事細かく丁寧な説明を聞かせてくれていたけれど………。
男性を施術する以上、綺麗事をいっても性に関しては切っても切れない問題があると……。
釣りであったり伝統工芸であったり、一見は気長な人が向いていると思いがちだけれど、実は短気の性格の人が向いていると……。
異性の身体に触れるということに当然、理性を持たなければならない……。
同時に性的な興奮を覚えない人は、残念ながら長続きしないのだという。
好きこそものの上手なれ………。
セックスが好きか、その頻度は?、どんな性癖があり、どんなことが好きなのか、その他諸々……。
嘘を記入してもやはり後で判明する、なので辞退するなら今して欲しいと……。
タブー視されることにここまで踏み込んで、包み隠さず説明があるのだ。
海外よりも性教育の遅れた日本は、実社会も同じだと改めて実感せざるを得ない。
完全に納得したわけではなかったけれど、恵子は正直にアンケート用紙に記入させてもらった。
セックスは……好き…
頻度は………週に一回…
性癖………人知れずにする秘め事…
どんなことが好きか……オーラルセックス……するのもされるのも好き…
その他、アレやコレ………
後で少し………いや、だいぶ後悔したけれど……。
研修は3ヶ月に及んだが、その間も最低賃金をいただけたのはありがたかった。
元エステティシャンだったこともあって、感というものは意外と早く戻るもの。
体が勝手に動き、昔取った杵柄が役に立ちそうだと恵子は自信を持った。
このときまでは………。
渡された施術着は研修中に着ていたワンピースではなく、上下が別れたセパレートタイプ。
上は襟なしのポロシャツのようで、濃紺色なのはいいとして胸元までが深くV字に切れ込んでいるではないか。
身体にぴったりタイトだから、エステをするのにセクシー過ぎないのだろうか………。
それにスカートだ……。
あまりにタイトだと思ったらストレッチ素材だとか……。
いくら伸縮性があるからといって、太腿までしかない丈の短さを採用する意味が分からない。
男性客受けを良くして、集客率を上げるためとしか思えなかった。
アンダーショーツも用意されないし、恵子は普段はほとんど使用しない無地の黒いショーツを選ぶことにした。
出勤前にシャワーを済ませて、いよいよ今日から現場で仕事である……。
もしも…………考えたくはないけれど、もしものことを考えて生理でもないのにタンポンを挿入しておく………。
濡れやすい体質だから、興奮していると勘違いされたくないのだ。
それはあまりに短いスカートだから、見えてしまうこともあるだろうと思うから……。
勘違いも何も、オリモノでもショーツの表まで染み出すことなんてほぼない。
それを気にするくらい……表まで染み出すくらい濡れるということは、認めたくはないけれど……。
女だって視覚、触覚からの情報で興奮することだってある。
だってお客様は、若い男性ばかりなのだから……。
そんなエステティシャンに返り咲いた、濡れやすい女が待つエステサロン………。
そこにまたひとり、若い男性が釣られようとしていた。
手渡されたチラシに目を移すと、人妻キラーの血が騒ぐのを感じる……。
女の魅力は30代後半からというのが、彼の持つ持論である。
居並ぶ女性たちを見るといわゆる若い子は一人もおらず、期待する気持ちが上がらないわけがない。
まあ風俗ではないみたいだけれど、オイルを塗りたくりられて勃起したペニスの形を浮き立たせる。
それをエステティシャンに見せ、見られる快感も悪くない………。
無料期間中とあって、初回はタダで受けられるのだから行かない手はないではないか……。
折り畳んだチラシをポケットに突っ込み、意気揚々と黒田拓海はお店に向かって歩き出す……。
某公務員が非番の今日でよかったと、拓海は思う……。
濃い緑色や迷彩柄を身に着けて、日々厳しい訓練に明け暮れているのだ。
この程度の息抜きくらい、必要ではないか……。
鍛え抜かれた20代の脚力は、早くもお店の入るビルに辿り着く……。
拓海は女性受けのいい爽やかな笑顔を浮かべると、お店の扉を開けた………。
水原さん、お客様が来店したみたいだから…………あなたの最初のお仕事よ……
いよいよ来た、恵子はいい意味での興奮と多少の不安を感じながらスタンバイを開始する。
メンズだからといって、特別に変わったことをするわけではない………。
自分にそう言い聞かせ、奮い立たせる……。
恵子のデビューはもう、目前だった。
この後に何が起こるのかも、何も知らず………。
※元投稿はこちら >>