夜勤明けの風に髪の毛が舞った。
目を細めて駅の階段を降りて、バス停に向かう。
3ヶ月前に生まれた孫の顔を見に、娘夫婦の住むマンションへ行かなければならない……というのは表向きの話。
初産だった娘が心配なのだった………。
何だかんだでお昼を過ぎてしまった。
娘と一緒に簡単な昼食を食べて、マンションを後にした。
47歳でお祖母ちゃんか………。
高山美鈴は複雑な気持ちになって、ひとり苦笑いをした。
自分も結婚、出産は早かったが、血は争えないらしい……。
看護師になって28年目、看護師長になるまで色んなことがあった。
患者として出会った夫と結婚したことだけが唯一良いことだったけど、看護師なんて世の中の人が思い描く白衣の天使なんかではないのだ。
ではどうして続けてこれたのか自分でもよくわからないが、強いて言うなら彼等が元気で退院していく姿を見るのが好きだからだろう……。
良いことばかりではない。
デリケートな問題のひとつには、患者の世話がある……。
清潔援助と一口にいってもシャワー浴、入浴とあり、特殊入浴、部分入浴と多岐にわたる。
慣れれば体を拭くだけの部分清拭や全身清拭のほうが楽なのだが、厄介なことがある……。
骨折などの一部分の怪我以外は身体が元気な患者が、それに当たる。
特に両手が使えない患者となると禁欲を強いられているわけで、当然のように勃起される……。
自分のようにベテランになればどうってことはないが、よく若い後輩たちに泣きつかれるのだ。
経験を積ませなければいけないので、彼女たちには試練かもしれない………。
彼等だって大半が羞恥心を感じ、申しわけなさそうにするのだ。
だが中にはそうじゃない輩がいる。
困る若い看護師を見て、喜びを感じる性癖を持つ変態が……。
そんな相手は美鈴が率先して代わってやり、その輩を生殺しにして放置してやるのだ。
誰が射精をさせてやるものか、と……。
勝手に夢精をすればいい……。
気の毒なのが若い男性だ。
良識があって、素敵な男性であればあるほど気の毒になる……。
生理現象なのだから仕方がないのだが……。
そんな男性は看護師たちにも当然、人気がある。
だが清拭援助となると、途端に尻込みする。
恥ずかしいのは男性も同じ、これも看護師の仕事だというのに結局は美鈴に回ってくるのだった。
仕事と割り切れば何でもないが、割り切るということは本音は違うということである。
美鈴だって女なのだ。
もうすぐ50に手が届きそうだというのに、未だに40歳ぐらいに見られる若さを保っているのは、遺伝にほかならない。
母も祖母も同じ経験があり、母なんでもうすぐ70になるというのに50代後半にしか見えない。
美鈴が若い頃は、よく姉妹に間違われたのだ。
プロポーションが良く美貌を備えていたので、若い頃は心ない患者によくセクハラされて泣かされたものだ。
患者にしてみれば美人で胸の膨らみが目立ち、当時の看護師のユニフォームは透けていたのもいけないのだが……。
気持ちを仕事モードにして体を拭いていると、やっぱりアソコがみるみる元気になっていく……。
彼は申しわけなくて、恥ずかくて所在なさげにしているのだ……。
精神的に辛いだけでも大変なのに、体はもっと辛いはず………。
美鈴は女だから本当のところは分からないのだが、男性の意識としては理解ができる。
だから内緒だと、固く口止めして美鈴の手で処理をしてあげることもある……。
1度、たった1度だけだが美鈴は間違いを犯したことがある。
色んなことが重なり、気持ちが追い詰められていたこともある。
それに生理前だったことも当然、影響していたのだろう……そんなことは理由にしてはいけないのだけれど………。
あっと言う間に射精してしまった彼のペニスを、美鈴は綺麗に掃除していた。
射精直後とあって敏感になっていた彼が、悶えてあまりにも気持ち良さそうだったのだ。
動かす美鈴の手を掴み、なんともいえない表情をして見つめられた……。
なんだかいけないことをしているような気持ちになり、不覚にも性的な興奮を覚えてしまった…。
彼が何を訴えているのが手に取るように、美鈴には分かった……。
いけない、それはできない……。
そう思ったけれど、彼の目は自分の性器と美鈴の顔を交互に目で追うのだ……何回も……。
いけないと思うのに、身体が勝手に動いていた。
まるでなにかに操られるように、気がついたら彼のペニスを咥えて舐めていた……。
青臭い匂いが鼻から抜けて、夫よりも立派な亀頭をカリ首まで唇を被せて何度も往復させる……。
口の中に彼のカウパー液が溜まり、飲み込むしかなかった……。
彼の手が白いワンピースの裾の下を潜り、太腿に触れてきた。
拒絶できた筈なのに、黙認する自分がいた……。
いつしか彼のベッドに引き上げられ、彼を跨いでお互いの性器が顔の前にある状況が生まれる……。
病院のトイレにはウォシュレットが装備されていたが、やはりシャワーを浴びていないことの抵抗は女として辛かった……。
でも彼としてはそんなことは理由にならないようで、パンストを破り下着を寄せて………。
死ぬほど恥ずかしくて、なのにペニスを咥える口を離せずに頭を動かし続ける行動を止められなくて……。
シックスナインという体位なんて、夫ともしないのに………。
あまりに感じてペニスを握り締め、悶絶するしかなくて……。
我慢できなかった………。
気がついたら彼の上で、腰を使っている自分がいた……。
背面座位というのだろうか、恥ずかしくて彼の顔を見れなかったのだ。
患者のものを数知れず見てきたが、間違いなく彼のペニスは大きくて入るか心配だったが……。
子供を生んでいるのだ……。
夫の大きさで慣れていたから少し辛かっだったが、メリメリという感じで自分の中に入ってきた……。
苦痛は最初だけで、後は………。
恥ずかしながら夢中になった……。
いてまでも時間を使ってはいられない。
ナースステーションに戻らなければ、同僚に勘付かれるかもしれない……。
彼に向き合ったのは、中に出されないように観察する必要があったから……。
彼の顔を見ていたが、常に見てなどいられるわけがないのだ。
美鈴がイきそうになっていたときだった。
夢中だったから、彼の変化に気付かなかった…。
あっ………っと思ったときには、中に射精されていて………。
一線を越えた自分がバカだったと、それからというもの戒めとして今日まで間違いは犯してはいない。
だけど、と今でも思う。
色んなことを除けば、堪らないセックスだったのは間違いない……。
あとになって知ったことだが、自分以外にも数人の同僚も数年に渡って患者と関係を持っていたことを美鈴は密かに知らされた。
もちろん当事者の本人が口を滑らせたのだから、事実だと思われる。
1度だけとはいえ自分も同じ間違いを犯したのは、我ながらショックだったが遅いのだ。
彼女ら同僚は病院組織に目をつけられていて、ある日に証拠を突き付けられて職場を追われていった。
もう10年以上前のことだが………。
なぜ今ごろになって昔のことを思い出しているのだろうと、美鈴は考えた。
そうだ、夜勤で素敵な若い男性を清潔援助していたからだと思い出す……。
見事なペニスだったのだ……。
体が疲れて怠い、寝ていないのだから当然か……。
駅前をぼんやり歩いていると、誰かに声をかけられていた。
…………いかがですか、今なら無料期間ですので体験されていかれませんか?……。
エステサロンの勧誘らしい。
手渡されたチラシには、男性エステティシャンが在籍とある………いやらしい……。
自分が時代に置いていかれているのかしら?……
今はこんなことが普通で、当然の世の中になっているなんて………。
ひとりチラシを見ていると、スタッフらしい彼女が言った。
エステ店女性スタッフ 経験を積んだ者ですので、当店で人気のエステティシャンなんです……
無料期間中に体験されてみて、良かったらお越しいただけませんか?……
決して押し付けがましくなく、上手に心をくすぐってくる……。
疲れが思考を鈍らせたとは思わないが、嫌悪感はなぜか薄れていた。
そんなにこの男性エステティシャンたちを推すのなら、無料期間だし………と、美鈴はエステサロンへと足を向けた。
疲れを取りたいだけよ、それだけだから……。
どうして自分に言い聞かせる必要があるのかと、そこに意識が向かなかったのはやはり疲れていたのか………。
美鈴はエステサロンのガラス扉を開けて、足を踏み入れた………。
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