……御予算はこのくらい、駅から20分以内で部屋数は……
お客様として訪れたカップルを相手に、カウンター越しに対応する。
いくつかの候補を資料として提示して、希望に満ち溢れた眼差しで選ぶ男女の2人。
………ありがとうございました。
選んだ部屋を後日訪れる話がまとまり、2人が帰っていった。
門脇陽子35歳は、駅から近い場所に小さな店舗を構えた不動産会社に勤めている。
取り出した資料をファイルに戻し、立ち上がって店に戻す。
レディース特有のパンツスーツが、細身の体によく似合う。
女性らしくセクシーなプロポーションがフィットして、惜しげもなくお尻の形を披露する濃紺色のパンツ。
体を翻してディスクに戻ろうとする陽子の腰の横からお尻にかけて見える。
切れ上がったショーツラインがお尻の半分に貼り付いて、その面積の小ささを物語っている……。
頭の後ろで纏めた黒髪、色白のうなじ。
白いプラウスが鎖骨よりさらに下に位置しており、控え目なネックレスが首周りの肌を際立たせている。
若かった10年ほど前に、レースクイーンをしていたことを知る同僚はいない。
大学を卒業して2年ほどをサーキットで華となり、ハイレグの衣装を身にまとっていた。
男好きな顔と相まって見事なプロポーションを大衆とレース関係者に誇示し、カメラの餌食に何度もあったものだった。
今はもうあんな衣装を着せられるレースクイーンは存在せず、陽子の世代が最後だったと後から聞いたけれど複雑な気持ちを抱いた。
確かに恥ずかしかったし、ハイレグだっただけに常に陰毛の処理に気を使わなければならなかった。
歩けばお尻に食い込んでTバックのようになるし、気がつけば前側も同様になることも珍しくなかったのだ。
お尻はすぐに直せたが、前は………人前でそこに触れるわけにはいかなくて大変なのだ。
そういったことを除けば当時の女の子にとって、報酬はかなり良かったから我慢できたのだ。
それにあの仕事に就けたのは容姿を認められた証だと、当時は承認欲求を満たされることが大事だったし気分が良かったのだ。
愚かな若気の至りだったが、若い女として外見が認められるのは何よりの勲章だったから……。
どうしてあんなことに青春を傾けたかと思うけれど、結婚して今は落ち着いたものだった。
とはいえ今でも時々は見られたい願望が疼くことがある。
子供に恵まれない夫婦、母になれない女たからといえばそれみまでだ。
でも罪にはならないだろうし、性癖だなんて思わない。
子供がいなくても夫婦は成り立つし、綺麗にいられることを自慢にできなければやりきれないではないか………。
定時で職場を後にした陽子は、その足で駅前まで歩きスポーツジムに向かった。
黒色の競泳用水着に着替え、プールを端から端まで何度も往復する。
体を虐めると気分が落ち着く。
プールサイドに上がってタオルで顔を拭く。
さり気なく周囲を見ると男性たちがそれとなく見ていることに、陽子は気付く。
まだまだ女として捨てたものではない、女として魅力が十分にある………。
同じようなハイレグの衣装を着て、かつてはサーキットに立っていたのだという自負が、今になって自尊心を心地のいい風が撫でてくれる……。
足首から上にタオルを押しあてて、水滴を生地に吸わせる。
腕と首筋にタオルを当てていると、すぐ側を筋肉質の男性が通り過ぎていく……。
さり気なく陽子に視線を向けて、浮き出る乳首をその目に焼き付ける……。
2.0の視力は浮き出た乳首を確かに捉え、股間の剃り残しを探したがさすがにそこまでは確認できず、忸怩たる気持ちで歩き去る……。
あの身体つきにして綺麗な顔、指に光る指輪がなければ誘ったのに………。
男性はやはり忸怩たる気持ちを引きずりながら、股間に血流が集まる前にロッカーへと足を早めていった。
いやらしい………一瞬だったけど、舐めるように見られた気がした。
陽子は目を伏せてはいたが、そういうアンテナは女は敏感に働くのだ。
でも嫌悪感の対岸には承認欲求が満たされる喜びがあり、スイムパンツに嫌味のように浮き出させた男根まで見えた。
タイプではない男性だったからどうでもいい。
男性が女性に対するように、女は感情は動かないもの。
それ単体にはなんの価値も値打ちもない。
最近は夫とのセックスに、それほどの喜びは感じなくなっている。
妄想や想像をすることがあるように、女としての性欲は人よりもあるとの自覚は陽子にはある。
だからといって誰か他の男性とだなんて、思わない。
そう、想うはずはないのだ………。
あの男性に嫌な後味を残されて、そうおめわずにはいられなかった陽子は外に出た。
今日は夫の帰りが確か遅かったはず。
スーパーに寄って夕食の材料を選ぶとしようかしら………。
陽子はビーフシチューのお肉を煮込む想像しながら、駅前に差し掛かった。
………いかがですか?……今なら無料期間中なので、無料で体験いただけます………
エステサロンの勧誘らしかった。
渡されたチラシを見て、陽子は思う。
エステかぁ………でも女性専用よね?これ………
今は男性エステティシャンが在籍するって、世の中は変わったものだわ………
問題はないのかしら……宣伝とか勧誘をするくらいだから、受け入れられてる証拠ということ?……
陽子は自分が時代遅れに感じたが少し……いや、だいぶ抵抗を感じながらも惹かれる気持ちもあるのも事実だった。
男性エステティシャンがかなりタイプだったのだ。
客寄せにはもってこいの甘く爽やかな笑顔……。
こんな古典的な手に引っ掛かる女は多いのか……
陽子は手にしたチラシを折り畳み、スーパーのゴミ箱に捨てるつもりで歩いた。
でも………と、足が止まった。
無料よね、一回だけなら………。
そんな自分に都合の良い考えが浮かぶ……。
プールサイドで嫌なモノを見せられて、その記憶を払拭したかったこともある。
不適切だがあの大きく浮き出た形と、男性エステティシャンを結びつけたら……。
そんな邪な考えが陽子を突き動かした。
誰も傷つかないし、触れられる恥ずかしさはあるけれど素敵な男性ならそれも許せる……。
陽子はさほどの罪悪感もなく、踵を返して足取り軽く歩き出した。
エステサロンのお店に向けて………。
シャワーを浴びながら、陽子は体のチェックをはじめた。。
胸がもう少し大きかったらな………。
Cカップしかない泡に塗れた乳房が、シャワーに洗い流され姿を表す……。
乳輪は普通なのに、乳首がやや大きいのがコンプレックス………。
夫は好きだと褒め、プールサイドでの男性も舐めるように見ていたから男性の目には魅力的に映る
らしい。
色はともに残念ながらもう茶色になってしまったが、黒くはないからまだ平気……。
そもそも見られることはないか………万が一、万が一見られてもの話よ、バカね………。
ひとり内心で呟く陽子。
お腹も脇腹も贅肉はない、御尻だって垂れてないし脚だって贅肉はないわよね……よし…。
シャワールームから出て体を拭くと、紙ショーツを履く。
上は……ない。
ということはタオルで隠すだけという事実に少し不安になったが、今さらどうしようもない。
やがて施術ベッドに移動して待っていた陽子の前に、チラシに載っていた男性エステティシャンが現れた。
男性スタッフ こんにちは……今日は心を込めてお相手を努めさせていただきます……
あまりに爽やかで清々しい笑顔が眩しく、チラシより輪をかけていい男に陽子は動揺する。
ドキドキして、今から彼に体を触られることを考えると恥ずかしくて仕方がない。
いやかと言われたら、もちろんその逆である。
自分でも現金なものだと思うけど、それが正直な気持ちなのだ………。
薄い壁で隔てられた隣にも、やはり女性客がいるはずだ。
陽子が受付を済ませたときに、シャワールームに向かう自分よりも年齢が上の綺麗な主婦らしい人が見えた。
他には利用客はおらず、いくつかある施術部屋の前にはカーテンが引かれてなかった。
ということはあの女性は、カーテンの引かれていた隣の部屋にいることなる。
ほら、男性エステティシャンと交わす短い会話、それがたまに聞こえてくる……。
彼女もまた自分と同じように、心をときめかせているのだろうか……。
仰向けになりバスタオルを剥ぎ取られた格好で、オイルを広げられる手の温もりにうっとりしながらも、ぼんやりと思う陽子……。
恥ずかしい……でもこんなに素敵な若い男性の手でエステを受けられて、最高………。
彼の手がうなじから肩へ、両腕を済ませて背中。
腰から脇腹、そして……胸の横を通過して脇の下へと彼の手が往復する……。
際どいところを触り、指が押し潰されてはみ出した乳房の一部に触れる………。
ちょっと………どこを触ってるのよ………。
嫌悪しながらもどこか心が浮足立ち、興奮する。
でも基本的にはプロとしての仕事が陽子の体を癒やし、心が溶かされていく………。
足首から手が這い上がり、紙ショーツの際まできて、もう片方の足首に移る。
それが交互に繰り返し行われ、不意に紙ショーツの中に入った指先が触れた。
はじめは偶然かと思った。
それが数回に1度、時々だったのが際どいところに何度も触れるようになってきた。
そろそろ抗議をしたほうがいいかしら……。
そう思いはじめたころ、彼が囁いた。
男性スタッフ お客様、ヒップはどうなさいますか?
素敵なプロポーションを保つために、させていただいてもよろしいですか?……
なぜ断らなかったのだろう………。
陽子は首を振ったつもりだった。
いや、はっきりとは分からないように曖昧な動きにして、見方によって頷いたように見えたかもしれない。
むしろ勘違いしてくれることを期待して、そうしたのだ。
断ったのだ……その事実がある限り自分に言い訳が立っ。
なにか間違いがあっても………。
えっ?……あたしは間違いを期待してるの?……
自分の隠れた本音に気づき、陽子は愕然とする。
そんな陽子の紙ショーツの中に、上下から彼の手が入る……。
お尻の山を手の平が覆い、撫で回す……。
嫌悪感と羞恥心、好奇心と欲望が交互に襲来し、お尻の山から谷を越え、隣の山に彼の手が移る。
いやらしい……やめてよ……どこを触ってるのよ……
そうよ、優しくして………変な気持ちになりそう…
男性スタッフ それでは、仰向けになりましょう………
バスタオルが掛けられ、体の向きを変える陽子。
そのバスタオルが狭められ、胸が隠れるだけなる。
首から肩、両腕が済むと胸元を彼の手が這い回る……。
指先がバスタオルの中にわずかに入り、ドキッとする……。
上側から胸の谷間に指先が触れ、左右の乳房の始まる一部を通り過ぎる……。
両側に垂れ下がるバスタオルが乳房の上に乗せられ、乳房の横を脇の下から脇腹へと南下、脇腹から脇の下へと繰り返し彼の手が往復する……。
際どいところを何度も通過して、乳房の一部、横の部分を何度も触れていく……。
恥ずかしくて、閉じた瞼の下で眼球が揺れる……。
彼がそれに気付いたらしく、こう囁いた。
男性スタッフ 眩しいようでしたら、タオルをお掛いたしょうか?……
額から目元までが乗せられたタオルに隠れ、陽子に不安と安堵が同時に訪れる……。
陽子のお腹に彼の手が触れる……。
その手が少しづつ肋の上を北上していく……。
陽子の心にさざ波が立った………。
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