いつもと同じ朝、通勤電車に揺られ駅を出て直ぐのところにあるコーヒーショップでカフェラテを購入する。
なんてことのない、いつもと同じ日常なのに気持ちがざわつく。
生活には困らることはなく、仕事だって順調。
特別に贅沢なことを望んでいるわけでもないのに何なのだろう、この気持ち。
………満ち足りていない?………バカバカしい。
確かに夫はこのところ、途中で不能になることが多くなった。
美樹とは15も離れた年の差結婚だが、まだ50歳になる手前、仕事のストレスでそうなったにすぎない。
確かに不完全燃焼なのは否めないけれど、だからといって不満を溜め込むほどではない。
その心当たりに薄々は気づいてはいたが、美樹は敢えて目を背けていた。
戻れなくなりそうな気がするから………。
今日は取引のある衣料メーカーまで出向いて、打ち合わせだった。
今の時代ビデオ通話というものがあるというのにわざわざ先方まで出向く理由は、昔気質の社長兼会長の気持ちを汲んでのことだ。
長年のつき合いで無下には出来ずそれは仕方がないが、美樹はこの社長兼会長という人が苦手なのだ。
一代で会社をあそこまで築き上げた手腕は誰もが認めるところだが、女癖が酷く悪い。
若い頃は泣かされる女性が多くいたというのは有名な話。
年令を重ねた今はそういう意味の現役を退いたのにもかかわらず、上から下まで舐めるように見るあの目が気持ち悪い。
あそこが役に立たなくなってもその気質は変わらないのだろう。
苦痛の時間をどうにか耐え、美樹は失礼のないようにその場を後にした。
この日、美樹は珍しく残業をした。
コンプライアンスがしっかりした今、規定の範囲内とはいえなんとか目処をつけて席を立つ。
そういえば今日は夫は出張で、子供のいない家には誰もいない。
どこかで食事でもしようかどうしようかと思案していると、久しぶりに映画でも観ようかと思い立った。
そこで一駅隣まで足を向ける為に電車に乗ると、思いがけず声を掛けられた。
誰だろうと声の主に顔を向けたら、自分よりも幾分若い男性が笑顔を浮かべて美樹を見ているではないか。
知らない人?……いや知っている顔の筈なのに、直ぐに合致しなかったのは私服姿だったからだ。
……………今日は遅いんですね。
そう、マッサージ師の彼だった。
驚きのあまり胸が踊る気持ちが体を駆け巡り、浮足立ちそうになる。
美樹 うん、あまりないことだけど、残業だったから。 今日は映画でも観て帰ろうかと思って、夫が出張でいないから……。
ちょっと、何を言い出すのよ……。
理性という心の声が、戒める。
マッサージ師 そうですか……ご迷惑じゃなかっ たらご一緒しても良いですか?
美樹 あら、まだ何を観るのかは決めてないの よ、それでもいいの?
まるで誘ってるみたいじゃない、何をいうの………
マッサージ師 勿論、課長さんとなら何でも…
美樹 そんなこと言っても、何も出ないわよ……
やったぁと言う気持ちと、自分に呆れる気持ち。
何を期待しているのだろう、私は………。
カップルシートというものがあったが、さすがにそれはやめて一般的なチケットを買う。
よせばいいのに年甲斐もなくラブストーリーを選ぶなんて、どうかしている。
やたらと広い映画館の中は平日とあって、やたらと空いていた。
まばらに埋まる座席、運良く人のいない端のほうの座席に座ることが出来た。
自分たちが座る位置から上は誰も居らず、同じ列には遥か向こうに人がいるだけ。
手を繋いでも暗い中では分かるはずもない。
軽い罪悪感、それを上回る期待感。
程なくして上映が始まった。
洋画だったが名のしれたハリウッド映画、俳優が演じる許されざる大人の恋愛模様が映し出される。
切なくて葛藤する気持ちに苦しみ、募る想いが胸を締め付ける。
不意に手が握られた。
暖かく気持ちが彼の想いに包まれていく。
ストーリーがベッドシーンを映し出す。
握られた手は指が絡み、汗ばんでいく。
肘掛けが上げられ、彼の肩にしなだれかかる自分を抑えられない美樹。
彼の手が座席の背もたれと腰の間に入ってきて、抱き寄せられる。
美樹の腰の辺りにあった彼の手が、太腿に置かれて、心臓が早打ちを始め………。
気づくと彼の顔が目の前にあった。
柔らかい唇。一度は彼を拒絶し、やっぱり舌を受け入れてしまった。
絡み合う舌と舌、それだけで体が熱を帯びる。
彼の手がスカートの裾に伸びて、スカートの中に侵入していく。
その手を美樹は抑えその先を阻止、首を振ってみせて拒否の意思表示をしてみたが止まることはなかった。
パンティストッキング、ショーツ……二重の邪魔な物の上からでもはっきりと隆起する部分を捉え、まぁ〜るく円を描く彼の指先。
唇を重ねたまま美樹の鼻息がやや強い漏れる。
勃起したペニスさながらに張りを増した部分を、指先が爪を立てないように何度も行き過ぎる。
美樹はその甘味な味に彼の肩に顔を埋めた。
美樹の湿度のある熱い吐息が彼の肩を湿らせるころ、彼の指は強かに濡れる位置と、第一関節ほどに成長したクリトリスを往復していた。
ムーディなメロディが流れる中、彼の指がスカートを捲り上げようと動く。
美樹はパンティストッキング、或いはショーツも下げられるのではないか、それだけはと拒絶した。
無理強いはせず直ぐにやめてくれた彼に安堵したのも束の間、ストッキングを破かれてしまった。
あっ……と思ったときには、ショーツの横から指が入っていた。
男性にしては滑らかな指先がクリトリスを捉え、そこを執拗に………。
いつしか片脚は彼の上に乗せられ、指が膣の中を弄られる喜びを座席に深く埋まりながら美樹は目を閉じていた。
見えはしないのだろうが、下半身には彼のアウターをかける彼の優しさが尚更美樹のガードを下げる。
その下では二本の指が忙しなく抜き差しが行われ、会社では課長職の肩書を持つ美樹を酔わせる。
数少ない観客は巨大なスクリーンに釘付けになり、誰も気にする者はいない。
映画は二人の既婚者が、自分たちを裏切り逢瀬を繰り返していた事実を知って苦悩するシーンを流していた。
その自分たちの伴侶が逢瀬していたアパートを突き止め、女性側がその痕跡を消してしまおうとゴミ袋に様々な物を投げ入れていた。
観る者を引きつけるシーンの中、彼は何を思ったか美樹の前に膝まつく。
美樹が制止する前に彼女の膝を割り、その中に顔を埋めてしまう。
次の瞬間、美樹は両手で口を塞がなければやらなくなった。
明らかに大きく彼の人差し指程もあるクリトリスに吸い付かれ、フェラチオまがいに前後にされる彼の唇がもたらす魅惑の快感。
合いの手のように舌までも使われて、美樹は体を捩り、くの字に体を前に倒す。
彼も暴れる美樹をものともせずに、両手で太腿をがっちりと抑えてクリトリスを捉え続ける。
ちゅぷちゅぷと美樹の感じる部分を唇の中で出し入れ、濃密な淫臭が漂う膣口周り溜まる分泌液を舐め取る。
大音量の音が響き渡り、暗闇に光が明滅する空間の中で美樹は体を震わせた。
映画は佳境に入っているようだった。
彼がペニスを取り出したのを見て、美樹は慌てた。
必死に彼を宥め拒否をしたが、彼は止まらない。
身動きもままならない格好が仇となり、彼のモノが入ってくる絶望感に打ちのめされる美樹。
入口を通過する苦痛、奥に届く鈍痛に息が詰まる。
咄嗟に同じ列に座る遥か向こうの人影を、美樹は見た。
顔はよくわからないが、こちらに気づいているようには見えない。
やめて、お願いだからやめて………。
美樹の願いも虚しく、腰の動きを止めない彼。
そんな美樹に変化が訪れるのは、そんなに時間他からなかった。
彼の動きに合わせて顎が上がりはじめ、とろん〜とした目つきになった。
夫よりも逞しく立派な彼のモノは、女の根本的な幸せを確実に運んできた。
覆い被さる彼の胸に顔を埋め、熱い吐息を惜しげもなく美樹は吐き出した。
その間も美樹は時どき遥か向こうの人影を揺れる瞳の中に捉えるが、よくは分からない。
危機感がどうしようもなく恐怖心を呼び、押し寄せる快感が打ち消すことの繰り返し。
こんな場所じゃなかったら……。
美樹の不安が消えないのを感じ取ったように、彼が美樹の手を取って立ち上がる。
最後尾の座席までそれ程の距離はなく、その後に回った。
その座席の背もたれに両手をつく格好で、今度は後から貫かれる。
そんな……こんな格好だなんて………。
そんな惨めな気持ちは、直ぐに消え去っていく。
なんてこと……こんなにいいなんて………。
すごい…………いい…………。
膝が曲がり落ちそうになる腰をがっしりと掴まれ、打ち込み続ける彼。
無意識に揺れる頭がゆっくりと持ち上がり、背中が反るような緩いカープを描きはじめる。
あぁ………すごい………。
スクリーンでは街から離れた郊外のロッジか何かで待ち合わせた二人が、再会の抱擁をするシーンが流れている。
繰り返される彼のピストン。
座席を掴む手の力が抜けそうになってきた。
もう、許して………おかしくなりそうよ……。
体が熱い……こんなに気持ちいいの、もう耐えられない……。
ねぇ……こんなに凄いの、初めて……
気持ちいい……気持ちいい……気持ちいい………。
だめだったら……ねぇ………もうだめだったら………。
ねぇ…………ねぇ………もう耐えられない………。
ねぇ……………ねぇたら……………ねぇっ……………。
もう、あたし……………だめ…………………。
そんな美樹の心の声なんて彼に聞こえるはずもなく、美樹の体が弾かれたようにビクンッとなったかと思うと膝から崩れ落ちた。
いわゆる絶頂感、イクという経験が膣ではなかった美樹は、30を越えて初めて知ったのだった。
その兆候をマッサージルームで彼によって感じていた美樹は、だからこそ怖かったのだ。
それを経験してしまったら、夫では決して味わえないと分かっているから。
彼から離れられなくなると、そんな自覚があったから………。
不完全燃焼で所在なさ気に佇む彼の、ペニスを口に含んだ。
散々と我慢していたのだろう、数分と経たず口の中が夥しい精液で満たされた。
それを飲み込み、独特の青臭さが鼻から抜ける。
映画のラストシーンを観ずにその場を後にしていく二人を、密かに見つめる人物がいることに美樹たちはまだ気づいてはいなかった………。
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