美樹 それでは今後ともどうぞ、宜しくお願いいたします…
応接室のテーブルを挟んで立ち上がり、挨拶を交わすとドアのところでもう一度お辞儀をしてからその場を辞した。
新たな取引先としては上々の出だしに美樹は、胸を撫で下ろす。
コツコツと足元を鳴らす美樹のパンプスの音に、革靴の音が続く。
入社して2年目の部下を引き連れて、現場というものを肌で覚えさせる為に同行させているのだ。
冬の季節の外は早くも夕闇がすぐそこまでやって来て、肌を冷たい風が撫でていく。
美樹 今日はもう、ホテルに帰りましょう…
部下 はい、お疲れ様でした…
美樹 どうだった?……
部下 はい………緊張しましたけど、勉強になります……
美樹 そう願いたいわね………
棘のあるもの言いになったが、実際美樹は彼に対して将来性を感じていた。
だからこそ自分クラスの人間が出向く取引先にまで、わざわざ同行させたのだ。
彼は頭が良くて、器量も良い。
ただ入社動機があまりにも不純で、美樹は頭を抱えたものだ。
彼との出会いは三年前に遡る。
故意にしている昔から付き合いのある社長宅に招かれ、夕食をごちそうになったその場に彼は居たのだ。
孫としての彼はまだ大学生で、美樹は好青年な印象を抱いていた。
それからしばらくして社長から連絡を貰い、こう言われたのだ。
社長 うちの孫を近い将来性、アンタの元で使ってやってくれないか………
もちろん美樹の独断で決められることではなく、人事部………さらには最終的に我が社の社長、会長が判断することなのだ。
だが数年後の春、彼は美樹の元に配属されてきて、美樹は唖然とした。
本当はいけないのだが、先方の社長とは家族同然の付き合いをすることがあった。
小さな繊維工場を大きくし、1代で今の企業にまで築き上げた社長の人柄に、美樹は惹かれた。
ある日、社長家族の温泉旅行に招待され、美樹は断りきれず参加したのだ。
宿泊先はホテルというある意味で味気ないところではなく、由緒ある老舗旅館で情緒があって素晴らしい景観だった。
苦労をしてこういったところに泊まれるようになるのが夢で、今でも年に一度こうして利用するのだという。
美樹はこの社長とは幾度かやり合ったことがあり、本音でぶつかり合ったことがある。
最後には決まって双方が納得して、理解を深めあった。
そうして信用のおける間柄になったのだ。
旅行ではご家族も暖かく持て成してくれて、美樹の為に一人部屋まで用意してくれていた。
その夜の夕食を共にし、休む前にもう一度温に浸かりたくて美樹は一人部屋を出た。
そして部屋に戻ってきたとき、戦慄したのだ。
そこには旅行カバンの中から美樹の使用済みであるショーツを手にした、孫の姿があったのだから………。
美樹は凍りついた心で、彼に告げた。
見なかったことにするから、今すぐここを出ていきなさい………と。
思春期を過ぎた彼の行動は、どう理解すればいいのか……。
女性に興味があるからだとしても、こういうことをするなんてある意味病気ではないのか……。
社長には言うことが出来ないまま彼は入社を果たし、美樹の元に来た。
そして愛を告げられたが、受け入れられるわけがない。
美樹 何を言ってるのか分かってるの?
私はあなたの上司で、結婚してるの……百年早い。
そう言い放つ美樹だったが、この青二才をどう扱えばいいのか悩む日が続く。
実際仕事の上達は目を見張るものがあったし、あとは若さからくる経験不足、キャパシティの問題だけなのだ。
それを一つ一つ乗り越えていくたびに、彼は人として男性として魅力を増し輝いていく………。
その眩しさに美樹は内心で狼狽え、動揺する……。
どうしてこの私が……おばさんじゃないの…。
私は上司、あんな子供に現を抜かすわけがないない……。
そう自分に言い聞かせた。
かつて美樹と情事に明け暮れた部下の彼は成長をし、将来ある彼を突き放した。
その結果、彼は結婚もして新たな道を進むことを選んだのだ。
マッサージ師の聡明な彼は、自分の城を手に入れて邁進している。
たまに連絡をしてくるのだが、邪魔をしたくなくて美樹はわざと遠ざけていた。
本音は彼に抱かれたい、あの熱い彼自身をこの体に受け入れたい………。
そんな渇望を押し殺して………。
火遊びから自らを遠ざけていたのに、新たな火種が目の前にある不安を美樹は感じていた………。
ホテルに向かう道中、美樹たちは市営バスを利用していた。
簡易ホテルを利用したり、タクシーを使ったりとかはせずに経費は節約しなければならない。
帰宅する勤め人でバスの車内はごった返し、ひしめく人の中で美樹は問題の部下の彼に守られるように立っていた。
体が揺られて彼の温もりに包まれる………。
もう十分に男性の体臭を放ち、汗ばむ彼の体の匂いに体が熱くなる。
不意にバスのブレーキに体が流れ、腰を押さえられて事なきを得る。
体が密着してドキッとする美樹の腰にある彼の手は、開いたコートの中に左手が侵入し、美樹の右側の腰を掴んでいた。
…………ああ……やめて、どこを掴んでいるの……
美樹の女の部分が、反応してしまう……。
気のせいか美樹のくびれた部分にある、彼の指が微妙に動くような気がする。
彼も彼で人混みに揉まれて汗ばむ女上司の、放つ大人の女の体臭に反応していた。
女性特有のメイクと汗のの混ざる匂い、髪の毛からスタイリング剤と頭皮の皮脂が合わさった匂いが欲情を掻き立てる。
自然と腰を掴む手が脇腹を通過して、肋骨の辺りに移動していくのを止められなかった。
体の力が抜けそうになるのを踏みとどめ、ハッとして美樹はその手を上から重ね、制した。
ブラジャーのアンダーに触れるかどうかのところで手は止まり、ゆっくりと肋骨を撫でて下がっていく。
美樹はまた力が抜けそうになる切ない感覚を、目を閉じて堪える。
その手が今度はさらに下へと進み、鼠径部に指が触れる。
ハッと目を開けた美樹はその手を掴んだが、手が重なったまま秘部へと彼は指を進めた。
パンツスーツを身に着けた美樹のそこには容易に到達し、中指が溝に沿って挿し込まれていた……。
彼の手に重ねられた美樹の手に、力が入る。
パンツ、ストッキング、ショーツと3重に守られた秘部をのの字を描く指先。
常に頭が飛び出ている大きなクリトリスが否が応でも撫でられて、覚醒していく……。
確信を持てないながらも硬い盛り上がりを、彼は指の腹の感覚に任せて撫で続ける。
俯き出した美樹は太腿を閉じ、図らずも彼にその存在を示してしまった……。
女上司の秘部に蠢く彼の手に重ねられた美樹の手も、同様に怪しく動く。
粘液がショーツに浸潤していく美樹の体がバスに揺らめき、地方都市のターミナル駅へと突き進む。
渋滞をはじめた道路に、車のテールランプの連なりが続いていた………。
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