『お父さん、雪が降ってるわぁ~。(朝から)寒いはずやわぁ。』
寒そうしながらも、和代はそれをとても嬉しそうに私に伝えてきた。積もりもしない雪。分かっていても、64歳の心を震わせるものがあるのだろう。
そこに、遅く起きて来た翔吾が現れた。今日は年末の仕事納めの日らしく、仕事は昼で終わるらしい。妻にそう告げている。
ご飯を食べる時間がないらしく、『伯父さん、行ってきます!』と言い、会社へと向かった。
その姿を見れば、彼はもう、私と妻の息子のような存在に思える。良くできた青年だ。
この時は、本当にそう思っていました。
翔吾がいない午前中、和代は珍しく私のとなりで添い寝をしてくれる。
上手く動くことも話すことも出来ない私の横で、何かをする訳でもなく、ただ横になって一人で語り掛けてくれていた。
しばらくして、和代が私の布団の中へと入って来る。そして、私の身体に負担の掛からないようにしながら、彼女は眠ります。
『お父さん、お願いだから…、ちゃんと治って…。』、そう呟いた和代は泣いてるように
思えた。
時刻は三時になろうとしていた。『今日はお昼まで。』と言っていた翔吾はまだ帰っては来ない。
アイツのための昼飯の準備を妻はしていたらしいが、無駄になってしまったようだ。
翔吾が帰って来たのは、結局は六時過ぎ。いつもと変わらない時間だった。
帰った彼はすぐに私の介護の手伝いを始め、妻のサポートをしてくれる。本当に感謝しかない。
三人で食べる夕食。妻の笑い声、翔吾の笑顔、私達はもう家族だった。
『伯母さん、ご飯食べたら、ちょっとお願いがあるんだけど。』
頼み事をする翔吾は苦い顔をしていたが、頼まれる妻も浮かない顔を見せていた。
それはあまり見ない顔。いつもの妻であれば、面倒くさがっても絶対にそんな顔は見せることはない。
気がついてやれなかった。和代はもう、彼の頼み事が何なのかを知っていたのだ…
別棟のニ階には、2つの部屋がある。その1つが翔吾の部屋となっている。その部屋へと入った2人。
和代はすぐに、アイツからの頼み事を聞いてやっていた。
知らなかった。妻の口はアイツを満足させる道具となっていたのだ。
今朝、朝食を食べることが出来ない時間にアイツが現れたのも、和代に処理をさせたためだった。
その後に、『お父さん、雪が降ってるわぁ~。寒いはずやわぁ。』と言った時の妻の心情は…。
私に添い寝をして、『ちゃんと治って…。』と泣いていた彼女の心情は…。
彼女の行動、やっと全てが繋がったように思える。
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