は〜い、お疲れ様でした、今日はここまでにしましょう…
町内会が始めた清掃活動に朝から参加していた。
参加者が手にしたゴミ収集用の袋は皆一様に膨らんで、パンパンになった。
清水夏子のゴミ収集袋も同様で、その後皆で飲んだペットポトルの冷たいお茶の美味しかったことといったら…。
帰宅してシャワーを浴びると、髪の毛の水気を拭き取りながらリビングまでくる。
いつもは気にもならないサイドボードの上にある写真立て、そこに視線がいった。
夫とまだ小学生だった娘と一緒に写る、家族写真だ。軽井沢で撮ったものだが、その娘は大学生となり、今は親元を離れて一人暮らしを満喫している。
あんなに仲が良かった夫婦間は今は、空気のような存在になってしまった。
夏子は大学を卒業後に大手商社に勤め、夫と出会った。
せっかく入社した会社は2年足らずで退職しなければならならず、その理由は妊娠だった。
仕事を取るか子供を取るかの2択を迫られ、泣く泣く後者になることを選らんだのだ。そのことに今も後悔はない。
夫は優しい人だが、あまり一箇所に落ち着く性格ではない。
仕事を言い訳にしてあちこちを飛び回り、いつしか女の影を感じるようになっていた。
証拠はなかったが、女の感としか言いようがない。
だがある日、酔って帰宅した夫のコートのポケットからホテルの領収書を見つけてしまった。
日付を見ると、その日の夫は飛行機に乗っていなければならないはずなのだ。
不思議と怒りや嫉妬という感情はそれほどなく、でもだからといって娘の将来を考えて離婚はしなかった。
夏子は気分転換にと、外に働きに出ることにした。
学生時代の友人がカフェを開くことになり、手伝ってくれないかと誘われたのだ。
飲食は大学時代のとき以来でドキドキだった。
でもやってしまえば何とかなってしまうもので、大学のミスに選出された美貌が今さら役に立つという皮肉さが、複雑な気持ちにさせたけれど……。
実際のところ、夏子のファンになった常連客は1人や2人ではなく、大学生から中年に至るまで数人はいた。
その他に不定期ながら足を運んでくれる客の姿もあり、その人たちは純粋に夏子の人柄と笑顔に惹かれて来てくれるのだった。
常連客の中にひとり、気になる青年がいた。
気立てがよくて爽やかで、夏子も好感を抱いてはいた。だからといって、そこに邪な気持ちがあったわけではない。
夏子は彼が会計時、お釣りを受け取る際に夏子の手をすぅ~と滑らせるようにすることが気になっていた。
決していやらしい感じではなく、いたずらをしているようにも見えない。
昔から男性に対しては鈍感だと言われていた夏子にも、さすがに彼の気持ちに気づいた。
浮気には興味がなく、夫の仕打ちに対する報復に若い男性に手を出すつもりもなかった。
魔が差した、としか言いようがない。
彼と身体を重ねて、それまで自分が経験してきたセックスがあまりにも拙いものだったと思い知らされた。
学生時代は若かったから除外できても、夫のそれでも今は彼に比べれば淡白なものだったと思えたのだ。
こんな世界があったなんて………。
彼とは2年半ほど続き、別れた。
前途ある若者をこれ以上自分で足止めをさせることに、罪の意識を感じていたのだ。
彼は別れるつもりはなかったが、最後は納得させた。
最後のセックスは、忘れられないものになった。
最初で最後、避妊をしないで情事に没頭したのだ。
何度も何度も彼に貫かれ、訪れるオーガズムにそれこそ疲れ果てるまで身を躍らせた。
最後の射精を注がれてからは、朝まで抱き合って朝日が登るのを涙を流して見つめていた。
皮肉なことに彼よりも夏子自身のほうが彼に執着していたとを、そのとき初めて自覚したのだ。
怖かった、だから大人の自分を自分に対して必死に演じていたのだ。
多分、最初で最後の最高の恋愛だった。
カフェも辞めた。
何かに取り組みたくて、身体を虐めることにした。
どうせするならとスポーツジムに入会し、電車で通うようになったのだ。
最初の半年は苦しくて仕方がなかった。
特にはじめの3ヶ月は泣きたかった。
それが1年を過ぎてから目に見えて身体のラインが変わり、嬉しくて仕方がなくなったのだ。
大きいお尻がコンプレックスだったのに程よく引き締まり、パンツを履いても見栄えするようになったのだ。
ウエストも女性らしく美しく括れ、代謝が上がったおかげて汗もよく流れるようになって肌の調子も良くなった。
どういうわけかもう40も過ぎているというのに、電車で痴漢にあうようになったのはびっくりだった。
母としての役割りはぼ終わり、これからどうしていこうかと考えていた。
とにかくまずは健康を確かめたい、そう考えて婦人系の病院を検索する。
たくさん出てきた中で数件に絞る。
その中で夏子の目を引く産婦人科医院があった。
…………あら、院長が女医さんなの?
院内を写した画像が気に入り、早速予約を入れておいた。
1ヶ月先まで埋まっているようで、それが評判の良さを物語っているように思える。
女医さんならいいな…。
夏子はこのときはまだ、気楽に考えていた………。
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