はい、お疲れ様でした。
これまで学んだことを是非、これからの人生に活かして下さい。
スラリとしたスタイルの良い身体を斜めにして立ち、ピタリと脚を揃えて背中を曲げず礼をする。
最前列の斜めに座る男性からはほどよい肉付きのヒップがこれ見よがしに突き出され、これでもかという誘惑に目を逸らすのに努力が必要だった。
これで見納めかと思うと、薄ら寂しい………。
田畑さゆりは大手企業から独立し、社会人向けのマナー教室を開いていた。
さゆりの美貌が手伝ってマナー教室の門を叩く門下生は、ありがたいことに後を絶たなかった。
さゆりは1人溜息をついて、ガランとなった教室を見回した。
充実した日々だが、埋まらないこともある。
仕事に生きて真っ直ぐ走り続けてきた。
なのに何だろう、この空虚感は………。
ぼんやりと今日のことを思い返す。
最前列、斜め前の男性はいい男なのに、目つきがいやらしかった………後から2番目の男性は自分好みだったが、自分には少し若いだろうか……。
馬鹿ね、私って………。
取り留めのない思考の末に、男日照りを認めたようなものだった。
さゆりは気づけばもう、40を過ぎていた。
自宅に帰り着くとスーツをハンガーに掛けて、クローゼットに仕舞った。
ストッキングを脱いでインナーも脱ぎ去ると、バスルーム横の洗濯機に入れた。
鏡の前でレース仕立ての大人の女性らしい、色気のあるブラジャーのホックを解く。
豊かな乳房が開放されると、未だ垂れることを知らない2つの白い山がその美しさを誇示する。
お揃いのショーツの両サイドに指を差し入れる。
前面の一部がスケルトンになっていて、控え目に見えていた陰毛……スルリとショーツが足元に落ちるとその全容が露になった。
今流行りの脱毛は申しわけ程度に施され、あとは綺麗にカットをして整えられていた。
鏡に映る自分を見る。
身体を横にしたり斜めにしたりしてチェックをする、少し肉が付いたかもしれない。気をつけなければと、心に留める。
バスルームに入るとメイクを落し、ボディシャンプーを身体の隅々まで行き届かせて泡立てる。
首、顎の下、肩から腕、背中から腰、脚からお尻に戻り、お腹、乳房………。
シャワーで綺麗に洗い流すと、頭に取り掛かった。
浴室を出るとスキンケアを抜かりなく終え、部屋着に着替える。
キャミソールにゆったりしたニット、肌触りの良いシルクのワイドパンツだ。
手頃な値段だったスパークリングワインを開けた。
少し贅肉が増えたことを考えて、タコとトマトのカルパッチョ、冷奴を肴にスパークリングワインを口に運ぶ。冷たい炭酸が喉に心地良かった。
ノートパソコンを起動させた。
仕事のスケジュールを確認すると、ネットサーフィンを始める。
あるプログを見ていたら、病院の記述が出てきた。そういえば……と、さゆりはあることを思い立った。
人間ドック、去年は受けなかったから今年こそは受けたいと思っていたのだ。
検索すると沢山出てきて、どこにするか迷うではないか。
するとある産婦人科医院が目に止まった。
気になる項目に目を留めて、詳しく内容を見ていく。
女性のあらゆる悩みにお応えします、とある。
女性特有のあらゆる症状はもちろん、性の悩みまで………と、あった。
さゆりに性の悩みは思い当たらなかったが、強いて言うならペニスでオーガズムを経験したことがないくらいなのだ。個人差があることだし、そういうものだと諦め半分の認識で生きてきたのだ。そもそもこれを悩みとして受診するなんて、考えられない。専門家にまずは婦人系のことを診てもらえばいい、そう考えた。それ以外のことはまた別の所で健康診断を受ければいいのだから。
予約を入れると、1ヶ月先まで埋まっていることにびっくりした。それだけ定評があるのだろうと、ある意味楽しみだった。
その日までに無駄なお肉は落しておこう、さゆりは気軽に考えていた………。
さゆりは15ふん前には病院に到着していた。
早く着いた分、問診表とアンケートを時間をかけて記入することができた。
ただ、アンケートにあった質問には正直、困った。
やたらに性生活の項目が並んでいたのだ。
セックスには満足しているか
どのくらいの頻度か
どのくらい開けてるか
レスの期間はどのくらいか
等など………実に多岐に渡っていた。
さゆりは適当に応えようと思ったが、最後にこうあったのだ。
今後の貴女の人生が決まります、秘密は厳守されます、豊かな明日の為にどうか正直に………と。
どうせ二度と来ることはないのだからと、さゆりは素直に記入してしまった。
こうして美しい蝶は、蜘蛛の巣にかかった………。
女医:順子 田畑さゆりさん、ですね……今日はひと通り婦人系の検査をお受けになるんですね……それでは順番にあちらから進まれて下さい……
なんのことはない、これまで受けたことのあることばかりなので特段に大変なこともなかった。
でもさすがに産婦人科医院だけあって、壁紙とかインテリアは女性ファースト感満載で、居心地は凄くいい。………マンモグラフィだけは何回受けようと、好きになれないけれど。
最後にまた最初の女医の所に戻った。
女医:順子 お疲れ様でした、いかがでしたか?
さゆり えぇ、居心地の良い病院ですね。
女医:順子 ありがとうございます……後でハーブティーを置くラウンジがありますから、寄られてからお帰り下さい。
さゆり まあ、ハーブティーが?……嬉しいです、是非寄らせていただきます。
女医:順子 アンケートを拝見しました。
当医院は秘密は外には漏れませんので、お話いただけますか?……決して損はないと思います。
さゆり えぇ………そうなんですね
女医:順子 どなたとは明かすことはもちろん出来ないのですが、数名の方の例をお話します。
ある方は、大きいペニスじゃないと満足できないと、お悩みでした。パートナーの方は素敵な方らしいのですけど、どうしてもセックスが満足できないんですね。もちろんいろんな工夫をしたそうですが、こればかりは……ね。
またある方は、オーラルセックスのお悩みでした。
男性にしたくはないけど、されることは好きなんですね。そうなると当然、上手くいかなくなるわけです。
また別の方は、自主的に自分主導のセックスができるお相手じゃないと、満足できないんです。
そうなるとお相手は限られてしまうし、なかなか性癖の合う方と巡り合わないということなんです。
またある方は、セックスそのものはお好きでも、シングルでパートナーが居ないんですね。
でも年齢のことで前に出ることを躊躇ってしまって………お綺麗な方なんですけどね、男性に甘える事が上手ではないんですね…
最後の話はまるで、さゆり自身のことを指摘されているような気持ちになった。
女医:順子 今話した方々は治療を受けて、皆さん今は輝いていらっしゃいます……。
さゆり えっ……治療できるんですか?
女医:順子 もちろん、そんな女性のお悩みに応えたくて開いた病院ですから……もしよかったら、田畑さんも、お受けになってはいかがですか?
さゆり えっ…でも……どんな治療なんですか?
女医:順子 そうですね、まず順番に検査をしていきます、痛みは本当にありません……こういったデリケートな領域は、女性のことは女性が一番分かりますからね。一般的にはタブー視されてしまうことでも、私達は治療という方法で解決できると確信しています。
あくまでも医療行為です、これまでも沢山の方々がこの検査、治療を受けて心身ともに健康を取り戻して、皆さんみんな今は笑顔ですよ。
もう一度、これは医療行為です、秘密は厳守されますからご心配には及びません。
なんだか上手く煙に巻かれた気がしないでもないけど、医療行為、秘密厳守、を強調しているということは、きっと人には知られたくない治療なんだと薄々感じるものがあった。
怖い気もしたけど、性癖や個人的な性の悩みを何人も克服した人がいる、そう聞いてしまうと惹かれるものもある。人には言えない、性の悩みなのだ。
さゆり 私は悩みといっていいのかどうか……
女医:順子 アンケートにあったので、ごめんなさい……しばらくセックスをなさっていらっしゃならないとか…それはなぜですか?
さゆり 私は結婚に向いていませんから……今更この年齢でパートナーを探すのも億劫になってしまって。
女医:順子 女盛りなのに、それはお辛いですね……他に懸念されてることはありますか?
さゆり これと言って……なんだろう……
女医:順子 あくまで医学的観点からお聞きします、性的欲求はありますか?
さゆり それは………あります……
ときには夜ベッドで、ショーツの中に手を入れそうになる。だけど自慰をすることが虚しくて、どうしてもできないのだ。
たまに物好きな痴漢が電車の中で、スカートの中に手を入れてきて………。
危うく達しそうになったのだ。
モヤモヤする日々が続いて、凄く辛かった。
女医:順子 ちょっと気になることがあります……田畑さん、やっぱり検査を受けることをお勧めします
さゆり えっ……どこか悪いんでしょうか
女医:順子 私の見立て違いならいいのですけど、違ったら……早く分かることに越したことはないと思います……検査をすれば分かりますから……
急にさゆりは不安になった。
健康だと思ってきたけど、そろそろ何かが出てきても不思議ではない歳になった。
専門家が言うのだからここは素直に従って損はないと、さゆりは検査を受けることにした。
順子はなんて扱いにくい女だと、さゆりに憤りを覚えた。
だが、これまで何人もの女を見てきて、さゆりは明らかに欲求不満だと順子の感が見抜いた。
なにかとプライドが邪魔して苦労をしたが、検査に持ち込むまで成功した。
アンケート用紙には大きいペニスが好みとあったので、本当はそれなりに好きなのだろう。
順子は立派なペニスの持ち主をスタンバイさせることにした。
もう直ぐめくるめく快楽の世界に連れて行ってあげる、待っててね………。
順子にはさゆりが快感に喘ぎ、溺れる姿が既に見えていた。
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