久しぶりに街を歩いていると、後ろから「先輩」と声をかけられた。
もう何年も聞いていない単語に反応してしまったのは、それがとても聞き覚えのある声だったからだ。
振り返ると、そこに立っていたのは吉田君だった。
私が勤めていた会社の最後の後輩で、退職するまでの2年間ほどを指導係として接していた。
退職してから3年が経つが、彼は高卒の就職組だったので今年でまだ23歳のはず。
しかし当時とは見違えるほどの逞しい青年に成長していた。
私に会えた偶然が嬉しい・・・そう心からそう思っているのが伝わってくる笑顔に私まで幸せな気分になった。
だから全力で誘われると断れず、少しだけよと言い訳しながら喫茶店に入る事になってしまった。
彼との会話は本当に楽しかった。
たった2年しか一緒に仕事をしていないのに、退職してから3年も経つというのに話題が尽きない。
同じ上司、共通の同僚、同じ仕事、、、ある意味、共通の話題は旦那より多いかもしれない。
私は旦那とこんなにも密に話したのは いったいどれくらい前だっただろうと少し寂しい気分になりながら、私を全力で楽しませようと努力してくれる可愛い後輩に、親子ほども歳が離れているというのに嬉しい気分になっていった。
だから少しずつ話題が怪しい方向に変化していっても、不思議なほど不快感は湧かなかった。
「またぁ、そんなコト言って・・・こんなオバサンをからかって どうするの」
「そんな、からかうだなんて・・・先輩は魅力的ですよ、ホントに・・・すごく・・・」
こんな話題になってしまったきっかけはセクハラ課長の話しだったと思うが、もう覚えていない。
かわしてもかわしてもストレートな感情をぶつけてくる若い青年に、表情を取り繕えないくらいドキドキしてしまう。
心の中で何度もダメだと思いながらも、最近では旦那からすら向けられなくなった全力の好意にあてられてしまっていた。
「まったく、何考えてんの・・・私の歳、知ってるでしょ?」
「・・・歳とか関係ないですよ」
「あるわよ、何歳だと思ってんの」
「や、でもその胸・・・いや、スタイルとか、魅力的だし・・・」
「胸なんてとっくに垂れてるわよ、見たら興奮どころか幻滅するわ」
「や、でも・・・でも俺・・・」
俺、本気です・・・その言葉に、私は完全に撃ち抜かれてしまった。
どちらが言い出したのかは覚えていない。
試してみますか?と言われたのかもしれないし、試してみる?と私から言ったかもしれない。
そんなのはどうでもよくて、とにかく数分間の沈黙の後、喫茶店を出た私達は商店街の路地裏にあるラブホテルに向かって歩いていった。
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