シズカを学校まで送り、しばらくすると約束通りコウタが夫人を伴いやってきた。
逃げ出す訳にはいかなくなり腹をくくったようだ。
しおらしく夫人の横に佇むコウタは、明らかに普段から夫人の尻に敷かれているのは見え見えだった。
想像していたよりも夫人は美しい女性だった。
夫人はユキエと名乗った。
目鼻立ちのクッキリとした詩織とはタイプの違うかなりの美形だった。
体型も女性らしくふっくらとしていたが、決して太っている訳では無い。
どうやら夫よりも年上らしく、それとない色気を漂わせている。
ただ見た目とは違い、どうやらハッキリとした性格らしく、暗いところは全く見せずにサバサバした口調で話を進めていった。
挨拶を済ませたあと、夫のしでかした不始末を素直に詫び、夫にも頭を下げさせた。
どうやらユキエはかなりの資産家の娘らしいことも分かった。
そのせいか、屈託が無く、こんな状況でもとげとげしさを感じさせない。
タカヤもそんなユキエにいつしか好感を抱くようになっていた。
ただユキエは釘を刺すように口にした。
「この人、、、浮気は四度目なんです、、、わたしが知っているだけでも、、、」
「えっ、、、」
思わず詩織の口から声が漏れる。
「奥さんを誘った同窓会で会った、他の元同級生にも手を出していたんですよ、、、」
「そ、そんなこと、、、今、言わなくても、、、」
そう言ってコウタは目をそらして横を向いた。
「大変だったんです、、、一ヶ月前に、突然、相手のご主人がやって来て、、、この人、殴られたんですよ、、、まあ、いい気味だと思ったんですけど、、、本当に懲りない人なんです、、、」
ユキエはため息を交えて話を続けた。
「ても、、、もう、これが最後です、、、もう後は無いとハッキリ言いましたから、、、」
どうやらユキエはすぐには別れるつもりは無いらしい。
「そう、、、だったんですか、、、」
男には呆れるが、こんな男に夢中になっていた妻にも呆れるしか無い。
「でも、、、ご主人が冷静な人で、本当に良かったわ、、、出来るだけのことはさせてもらいます、、、」
なぜかユキエはタカヤのことをジッと見つめていた。
慰謝料を含めて話はついた。
タカヤはあえて慰謝料は要求しなかった。
どうせこの男では無く、奥さんが払うだけだと思うと、意味が無いと感じたからだ。
それを察したのか、ユキエは自分は立て替えるが、毎月、夫の小遣いから差っ引くからと言って譲らなかった。
タカヤはそれならばと慰謝料を受け入れることにした。
ただし、もう二度と詩織には接触し無いこと、ビデオ類いの物は全て始末することは約束させた。
詩織がどうなろうと構わない気持ちもあったが、さすがにこの男は終わっている。
ろくな結果にならないことは目に見えている。
シズカの母親としてそれは避けてやりたかったからだ。
話が済んだ後、ユキエは夫に先に外に出て待つように言った。
脳天気な夫は始末がついた開放感から歓んで従った。
コウタが出ていくとユキエは連絡先を交換し、タカヤをなぜか熱い瞳で見つめてきた。
「何かあったら、いつでも連絡して下さい、、、」
その様子を伺っていた詩織に視線を移す。
「奥様も、何かあれば、、、本当にウチのがごめんなさいね、、、」
わたしも謝らなくてはと思いながら、その丁寧な言葉と裏腹に突き刺さる冷たいユキエの視線に詩織は体が凍り付く。
そんな詩織を尻目に、ユキエはいとまを告げ出ていった。
「出来た奥さんだな、、、」
タカヤがそう漏らした言葉に、詩織は胸が締め付けられる思いがした。
つづく
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