ようやく駐車場に出られたのは、午後7時を遥かに回っていた。日は完全に落ちてしまい、辺りは真っ暗になっています。
ロビーではあれだけ激しくキスを繰り返していたのに、ここに出れば「なんだったのだろう、今のは。」とどこか冷静です。
彼女に「会社帰るの?」と聞くと、「後藤さんにヒドい顔にされてると思うから、帰らない。」と笑っていました。
確かに辺りは真っ暗で、その表情はほとんど見えません。言ってる通り、スゴい顔になっていそうです。
先に出たのは彼女でした。「お疲れ様です。」ではなく、「おやすみなさい。」の挨拶でした。
その親近感が心地よく、僕もこのホテルをあとにします。
翌日、ホテルのオーナーさんと従業員全員がホテルに現れていました。従業員と言っても、ほとんどがパート勤めの女性ばかり。
オープン日までを逆算して、この日から「準備の出来るものは始めてしまおう。」ということでした。
立ち入り禁止をしていたバリケードは取り外され、本格的に準備が始まります。
ただ、工事自体はまだ終わってはおらず、かなり制約が掛かったものでした。
オーナーと従業員が帰ったのは、午後4時頃。作業員も定時で帰ったので、またいつものように僕と悦子さんだけが残りました。
しかし、駐車場には僕達以外にもう1台停車をしています。「誰ー?」と2人で考えます。
しかし、誰なのかがどうしても分かりません。分かるのは、僕達以外にまだこのホテルに残っている方がいるということです。
仕方なく、全室を見て回ることにします。全室と言っても、40部屋近いシティ型のホテル。なかなか大変な大仕事です。
とりあえず、各階の廊下を覗き、誰も居ないかを調べました。それでも、人の気配はなく、2人で考えて1、2階を探します。
3階に関しては、ほぼ工事は完了をしていたので、「誰もいないだろう。」と予測をしたのです。
2つのフロアーの全部屋を調べても、そこには誰もいません。再動をしていた監視カメラを見ても、動くものはないのです。
「もしかして、誰か車を置いて帰ったとか?」、そんな結論に達しようとした時でした。
ホテルの事務所の電話が鳴ったのです。
思わず、「えっー!?」と口にしてしまいました。横に居た彼女は僕に、「なに?」と聞いてきます。
「いや、この音、内線よ、内線。部屋から掛かって来てるわ。」と説明をしてあげます。
電話機は同じでも、外線からと内線からとで、音を変えているのを知っていました。
「もしもしー?」と聞くと、相手は年配の男性の方。「風呂、水しか出んけどー!」とクレームを言ってきます。
しかし、これでようやく謎が解けました。バリケードを外したことで、工事中を知らない常連さんが勝手に入って来たのです。
馴染みの彼は、作業員が多くいても気にすることなく、いつも通りに部屋へと入って使用をしたそうです。
「工事中か。出るけど金は?」と聞かれても、「いえ、結構です。」としか言えません。
しばらくして、部屋から出で来る2人を、悦子さんと監視カメラのモニターで眺めていました。
出てきたのは、初老の男性。女性は若く見えました。僕達は息を殺して、2人が出ていくのを待ちます。
「やれやれ。」でした。ほんと、人騒がせなお客さんです。ただ、落ち度はこっち
側にあります。
それを分かっている彼女は、すでに対策を考えているようです。
男性が使用した部屋の電気はつけっぱなし。なので、どうしてもそこへ向かう必要があります。
気にした僕は、「僕、行ってくるわ。」と言いますが、彼女は着いて来ました。
部屋を開けると、さっきまで誰かが使って居た気配のようなものを感じます。
ベッドのシーツは乱れ、無造作に使用したスキンが捨てられていました。
モニター越しに見た男性と女性が、ついさっきまで行為をしていた証拠です。
悦子さんに気を遣った僕は、それについては触れることはありませんでした。
そんな彼女はその痕跡を隠すように、床に落ちていた布団を被せます。
そして、「私と後藤さんだったら、もっと綺麗に使うわよねぇー?」と言って部屋を出るのでした。
「私と後藤さんだったら、」、その日が近いことを予感させる彼女の言葉。
もしも、彼女とセックスをしたならば、僕もこの男性と同じように乱れてしまわない自信はありません。
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