午後6時半。僕達は工事現場をあとにしようとしていた。
「今から、まだ会社に帰るのー?」と聞かれ、「ブラックだからねぇー?」と答えていた。
久しぶりの悦子さんとの冗談めいた会話に、どこか懐かしさまで感じてしまう。長い2週間だった…。
「あとで連絡していい?」と聞くと、「無理しなくてもいいよー?ちゃんとお仕事して?」と言われ、僕達は別れました。
会社で仕事を終えたのは、午後9時近くにもなっていた。本当にブラックな会社である。
ためらいはしたが、言っておいたので、車の中で彼女に電話を掛けてみる。
「今までお仕事してたのー?すごいねぇー?」
「まあ、こんなもの。こんなの何年もやってるからー。」
「ご苦労様ー。」
「で、どうするー?悦子さん、今から会うー?」
「無理しなくてもいいよー。早く帰って、寝てー?」
「そだねー。遅いしねぇー?」
この気を使い合うような会話は、どこまでが本心だったのだろう。
このまま電話を切れば、何事もなく終わってしまう今日。
「悦子さん…?」
「んー?」
「抱きたい…、あなたを…。欲しいです…。」
「うん…。私も…。」
空白となってしまった2週間は、想像よりも遥かに大きく、互いの身体と心を疼かせていたのです。
午後10時。僕はホテルの駐車場にいました。約10分遅れて、彼女の紺の乗用車がそこに現れます。
互いの手には宿泊のための品が入れられたバッグが持たれ、今夜は帰るつもりはありません。
10分後、チェックインを済ませた僕達の部屋の扉が閉ざされました…。
無造作に床に投げられてしまう持ち込んだバッグ。しかし、今はそんなものに興味はありません。
興味があるのは互いの唇。ずっと欲しかった、愛する人の温もりでした。
「悦子…。」「ソウヤ…。」と名前を呼び合い、激しく求め合う唇と唇。
「ハァ…、ハァ…。」と息を切らせながらも、その欲求が収まることはない。
「欲しい…。」「欲しかった…。」と気持ちを伝え合い、身体も心もやっと取り戻したことを確認するのです。
僕達の長い夜は、まだ始まったばかりです…。
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