悦子さんの行う池内邸の工事。木材も組み上がり、家らしくなりました。
そこで行われたのが、最近ではあまり見かけなくなった、近所の方を招待しての餅投げ。
珍しいこともあり、大盛況で終わりました。僕もも駆り出され、上から餅を放り投げてさせて頂きました。
賑やかだった場から、次々と人が消えて行きます。「良かった、良かった。」と言いながら、関係者は片付けをするのです。
人が完全に居なくなり、残ったのは僕と悦子さん。もう、特に何もすることもありませんが、僕達は工事現場の関係者です。
最後は簡易の戸締まりをして帰ります。
そんな時、怜菜さんの車がまた現れました。片付け忘れの確認に来られたのかと思っていました。
降りて来たのは彼女一人。僕達をみて、「ありがとうございました。助かりました。」と言って来ます。
あの悦子さんの彼女紹介以来、この3人は妙に仲良くなっていて、3人でいることが普通のようになっていました。
たいした話をする訳でもないのですが、集まっていることが自然な感じがするのです。
そんな時でした。怜菜さんが「大橋さんー?」と悦子さんに話し掛けます。
「はい?」と悦子さんが返事をすると、「本当にいい電気屋さんを紹介してくれて、ありがとうございます。」と僕のことです。
「後藤さん、頼れるし、お話もとてもしやすい方ので本当に助かってます。」とえらくベタ褒め。
悦子さんは、「そうですねぇ。ほんとにいい方なので、私も助かってるんですよ。」と悦子さんまで。
彼氏を褒められているようで、上機嫌のようです。
すると、「この前ねぇ?彼とここでずっと手を握り締めあっていました。優しい手をされてますねぇ、彼…。」と言って来たのです。
それは、和やかだったこの場を一変させてしまうものでした。
「えっ?」、悦子さんの表情は変わり、僕の方を振り返ります。
真実なだけに、その時の僕の目は泳いでいたと思います。
「ほんとなの…?」、悦子さんの唇が僅かに震えながら、言葉を絞り出してます。
残念ながら、何を言っても言い訳になってしまう僕は、悦子さんの目を見るしか出来ません。
「なんなの、あなた…?」、出て来たのは、悦子さんの冷たい言葉でした。
彼女は施主である怜菜さんにはちゃんと頭を下げ、この場を去りました。
僕は、それをただ見届けしかありませんでした…。
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