午後7時を過ぎ、僕達の軟禁は解かれました。全員がこのホテルをあとにします。
オーナーさんからのご厚意(?)でしたが、流石にそれは受け取れませんでした。
悦子さんと一緒に出た僕は、最後に駐車場でこんな話をします。
「2ヶ月間、どうもありがとうございました。」と元請けとして、順調に工事を行った僕にお礼を言って来ます。
「ありがとうございました。楽しかったです。しばらくは会えないと思いますが、大橋さんもお仕事頑張ってください。」、
僕なりに丁寧にお答えをしました。車のドアを締める瞬間、「そおー?」と言って立ち去った彼女。
あの含み顔はなんだったのだろう…。
翌日の朝。
会社に出勤をすると、総務部長が寄ってきて、「ホテルのお金、昨日入金があったから。」と言われました。
あの工務店から請け負ったラブホテルの工事代金が、全額うちの会社に支払われたのです。
「そうですか。」と答えて自分の席に座りましたが、何か寂しいものも感じます。
それは、やはり悦子さんのことでした。
この2ヶ月、ほぼ毎日、同じ工事現場で彼女と顔を合わせていたので、今日からはそれがありません。
この先、うちの会社があの工務店さんと一緒に仕事をするのかどうかも分かりません。
「毎日、彼女と会うのが当たり前。」となっていた僕には、やはり寂しいものはあります。
「お互いに自分の場所へと戻っただけ。」と頭では分かっていても…。
その夜、上司から新しい図面が渡されました。田舎の繊維会社の工場の新築工事でした。
もちろん、あの工務店ではありません。図面を広げて眺めますが、全然やる気が起きません。
そのくらい、あのラブホテルの工事の2ヶ月は僕には楽しかったのです。
「ああ、それと、これもやってやれ!ついでじゃ!」と上司がA3サイズの小さな図面を投げて来ます。
2階建ての個人住宅新築の図面でした。「設計施工者」の欄を見れば、なんとあの工務店さんです。
更に送られて来たメールのコピーが添付されていたので、送信主を見ると、「工事責任担当者 大橋悦子」と書かれてありました。
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