悦子さんが住んでいるアパートのある一室。その部屋の玄関が少しだけ開きました。
中から外を見ているのは、その部屋に住む男性。いつもはそこにあるはずの紺の乗用車を探しています。
彼女と一緒に飲むつもりで買って来たビールも、冷蔵庫で冷やしたままとなっています。
「大橋さんー?ない!ない!」と青年に言いはった彼ですが、あれは本心ではありません。
本当は、ずっと彼女に好意を持ち続けていました。
この関係が壊れてしまうことを恐れるあまり、自分の気持ちを伝えることの出来なかった弱さ。
「あの青年のように、彼女の前でもっと素直でいられたら、僕にもチャンスがあったのかも…。」、そう嘆いています。
部屋に戻った彼はビールを取り出し、ひとり物思いに耽ります。そんな彼は、無意識にある歌を口ずさんでしまいました。
それは、数年前に彼女がカラオケで歌っていた曲。あれ以来、男性は何気に口ずさんでしまうのです。
残念ながら、その歌詞は男性本人の今の気持ちを代弁するかのようなもので、なぜか涙が溢れました。
今夜の彼のお酒は、ヤケ酒になりそうです。
激しかったキスが終わると、僕も彼女はいつもの顔を取り戻していました。
恥ずかしがっていた互いの裸にも少し慣れ、やっと普通に会話が出来そうです。
「悦子さん、胸、ちゃんとあるねー?平らだと思ってたわー。」とからかうと、「全然小さいよー!」とスネます。
やはり、胸にはコンプレックスはお持ちのようです。
その後も浴槽の中でバカを言い合っていましたが、一瞬の静寂が出来てしまいます。
「好き…。あなたが、ずっと好きです…。」、これまで何度も口づけを交わしながら、まだ一度も言えてなかった「好き」という言葉。
それを最初に伝えたのは、悦子さんの方でした。
僕の腰は浮きあがり、「好きです…。」と彼女の身体を求めます。
僕達は互いの身体に触れあい、今まで言ってなかったその言葉を何度も繰り返すのです。
「ンンンンー、ンンンンンンー、 ねぇー?教えてぇー♪」、
思いを伝えられず、今夜フラれた男性が口ずさむのは、こんな歌でした…。
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