明るい店内、多くのカップル。彼女との初めての外食は、ガストのハンバーグセットでした。
僕はそこでも過剰に彼女を「悦っちゃん」と呼び、口にすることにも慣れて来ていました。
しかし、彼女の方と言えば、照れくささの方が勝っていて、話をしていてもそっちの方か気になるようです。
「ソウヤくんですよねぇ?後藤さんって?」、彼女なりに考えて、なんとか絞り出した質問。
絶対に知っているはずなのに、わざとそう聞いてきました。
なので、「一回、呼んでみるー?」とからかってみると、「なによ、その顔ー。」と本心を読まれたことに恥ずかしがっています。
楽しい食事も終わり、またあのホテルへと帰ります。彼女の語りは仕事モードになっていて、僕もそれに従います。
もう、「悦っちゃん」なんて呼ぶことはできません。
仲がいいと言っても、彼女は元請け、僕は下請けの関係です。仕事の上では、彼女の方が上なのです。
駐車場に付きましたが、あと1時間半、どう過ごしますか。
車内は静かでした。暗い駐車場には僕達しかおらず、なぜか降りる気にもなれません。
そこで、やっと2人で話しが出来たのは昨夜のこと。キスをしあって、同じ布団で眠った仲です。
「あの部屋、生活するの大変でしょー?気を使わないといけないし。」と聞いてみました。
彼女は、「慣れよー。慣れたら、なんでもないよー。家賃も安いし。」とそう答えます。
僕は「なんて言うか、部屋の中を歩くだけでも気を使うと言うかー…。」と聞きました。
そんな僕に、「わかってるよ?あの部屋じゃ、男性と女性は愛し合えないよ?セックスは無理と思うー。」とハッキリ言います。
今度は、僕が本心を読まれていました。遠回しに聞いたつもりが、彼女はちゃんとそれを理解してくれていたのです。
「ソウヤくん、今夜お仕事が終わったら、私とホテルに行ってくれるー?」、突然の言葉だった。
そして、彼女は勇気を出して、僕を名前で呼んでもくれたのです。
「あのお部屋じゃ、大きな声であなたの名前を呼んであげられません…。」、そう言うと、彼女は僕に唇を寄せて来ました。
真っ暗な車内。僕達のシルエットが重なります。
時間は午後10時。明るく電気のついたホテルの事務所。
予定の時間を過ぎても彼らの仕事はまだ終わらず、僕と彼女は後ろの椅子に座って待っています。
互いに口には出しませんが、「はやくしろよ!」「まだかよ!」「何時までやってんだ!」と罵声を浴びせていたはずです。
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