午前6時過ぎ。僕は何かの物音で目を覚ましました。それはドライヤーの音。
見ると、悦子さんがドライヤーを使って、何かを乾かしています。それは、僕の着ていた作業着でした。
「汗にまみれた物をこのまま着させてはいけない。」と彼女が洗って乾かしてくれています。
アパートであるため、まだ洗濯機を回せる時間ではないので、早起きをして手揉み洗いをしてくれていたのです。
「靴下とシャツは乾いたよ?作業着は、全部は無理そう…。」と言ってますが、その優しさだけで充分です。
そんな彼女に、「パンツが一番汚れてるけど…。」と言うと、「なら、脱いで自分でやればー?」と言っていました。
午前8時。ホテルに着きました。夏用の作業着ですし、あれから時間も経ちましたから、ほとんどは乾いてくれています。
ただ、完全に乾ききってはいないため、身体のどこかはしっとり冷たい感じがします。
作業は順調に進んでいましたが、午後になってから、ある業者が責任者である悦子さんに残業の申し出をしています。
それはコンピュータのシステム会社。彼らのスケジュールは今日までなのに、予定より遅れているみたいです。
彼女が「何時くらいまでですか?」と聞くと、「7時くらいに終われば…。」ととても怪しい返事。
僕もこの仕事は長いです。これは大残業の予感でした。
18時を過ぎ、ホテルに残っていたのは僕と彼女、そしてシステム会社の2名。
どう見ても、まだかなりの仕事が残っているようで、彼らは更に1時間の残業を申し出ていました。
僕は、「大橋さん、先に帰りなよ。僕、残りますので。」と伝えました。
彼らが繋いでいる電線は全てうちが施工をしたので、責任がないわけでもない。それが残る理由です。
彼女は僕の言葉に、一瞬「甘えようかしら?」と思った感じがします。
しかし、「後藤さんが残るなら、私も残るわー。」と意地を張ったのです。
それよりも、かれこれ1日半以上風呂に入っていない僕。
もう身体はヌルヌル、自分から匂いはしませんが、「臭い匂いしてるだろうなー。」とそっちが気になってました。
しばらく事務所で過ごしていると、システム会社の男性が最後のお願いに来ました。
「すいません、たぶん10時回りそうです。」、それを聞いた僕達はガックシ。
彼らのために、まだ2時間半も拘束をされてしまうのですから。
悦子さんは、「なら後藤さん、ご飯でも食べてくる?」と言って来ました。
見れば彼女、なかなか不機嫌そうです。2度も時間延長をされたのですから。
彼らも、「ぜひ、そうしてください。」と言っています。待たせてた僕達が居ては、作業もやりづらいのだと思います。
僕と彼女な一旦ホテルを離れました。よくよく考えてみれば、彼女と外食をするのは初めてのことです。
運転する彼女は、「なによー!なら、最初からそう言えばいいでしょ!」と少しばかりご立派な様子。
僕は隣で、「まあまあ。」と彼女をなだめます。
雰囲気を良くしようと、「あの男性、結構イケメンじゃない?」と聞いてみました。
あのシステムの男性、僕よりも5つくらい年上で、顔もシューっとした方でしたので。
しかし、「どこがー?なんか、ナヨナヨしてるわ!女みたい!後藤さんの方が全然うえ!」と一蹴をします。
「悦っちゃんさぁー?」、彼女の機嫌を取り戻したのは、僕のこの一言でした。
それまで彼女を「大橋さん」としか呼んでおらず、いきなり下の名前でそれも馴れ馴れしく口にしたので、彼女も驚いたと思います。
もしかしたら、僕が「下の名前を知らないかも。」と思っていたかも知れません。
昨夜、「恋人同士」となった仲なのに…。
「悦ちゃんって、私のこと?」、その声はもう落ち着いていました。
「僕の彼女でしょ?名前で呼んで悪いー?」と言うと、「別にいいけど…。」としおらしくなってます。
「さあ、悦ちゃん、ガスト行きますかー!」と言うと、「なんか、恥ずかしいよー。」と言っていました。
そしてトドメの、「悦子、一緒にご飯食べに行くよー!」と声を掛けると、彼女はもう何も言えなくなっていました
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