一年の月日が流れ、カイトは北海道の祖母の元にいた。
北海道一の温泉街にある一二を争う温泉宿。
祖母と亡くなった祖父が二人で大きくした。
今は一流ホテルになっている。
社長でもある大女将の祖母タエはカイトがやって来てくれて、心から喜んで迎え入れてくれた。
カイトのことは孫の中でも一番のお気に入りだ。
子供たちがホテル業に興味を持たない中、跡取りが出来たと歓びを隠そうとしなかった。
カイトをすぐさま重職に付けようとする祖母を押しとどめたのはカイト本人だった。
下積みから勉強したい、カイトにそう告げられ祖母は渋々承諾した。
しかし心の中ではわたしの、そして亡くなった夫の目に狂いはなかった。
カイトはきっといい跡継ぎになると確信していた。
祖母はカイトの指導役として37になる小鳥遊美子という女性をつけた。
祖母が公私にわたって信頼を寄せる女性だった。
人妻だが仕事は有能で、表裏がなく性格も穏やかだ。
ヘンにおもねるところが無いところも大女将のお気に入りだ。
それにたいそうな美人で艶のある黒髪を肩まで伸ばし、品を感じさせる女性だった。
整った顔立ちに切れ長の瞳が落ち着いた雰囲気を醸し出し、貞淑な人妻の魅力を感じさせる。
引き締まった躰をいつもスーツで覆い隠し、まさしく出来る女、そのものという女性だった。
そんな美子の指導もあり、カイトは瞬く間に仕事を吸収していった。
そして美子とも打ち解け、カイトにとってな
くてはならない存在になっていた。
美子には18になる娘がいて、今春ホテルに仲居として勤めるようになっていた。
母にそっくりな美しい娘は当然カイトを知っていて懐いていた。
しきりにカイトに話しかけてくる娘の弥生を美子はよく叱っていた。
ここは職場なのよと。
娘がカイトに好意を抱いているのは知っていた。
いや娘だけでは無い。
カイトは長身のイケメンで、性格も優しく穏やかだ。
30になったが童顔のせいか若く見える。
しかもいずれは、このホテルを継ぐのだろうが、えらぶったところは微塵も無い。
それにバツイチだが独身だ。
独身の女たちは目の色を変えているものもいる。
いいや、中には既婚者の女性たちも、、、
そう、、、わたしだって、、、
そんな想いを振り払い、カイトに声をかける。
「カイトさん、ごめんなさい、、、弥生ったら、、、カイトさんに夢中みたいで、、、」
「まさか、、、俺みたいなおじさんに、そんなこと無いですよ、、、でも弥生ちゃん、きっとお母さんみたいな凄い美人になりますよ、、、」
凄い美人、、、わたしのこと?
思わず顔が赤くなる。
「あっ、スイマセン、、、余計なことを言って、、、」
頭をかきながら見つめてくるカイトの瞳。
優しいけれど、その奥に男を感じさせる。
いつからかその視線を意識するようになった。
いやではない。
正直嬉しかった。
美子はカイトをひと目見たときからタイプだと感じていた。
そんなことを思ったことは今まで一度もない。
ずっとその気持ちをしまい込んできたが、カイトのことを知れば知るほど、いけないと思いつつ気持ちが傾いていった。
だからカイトの視線を意識してメイクにも以前に増して気を遣うようになった。
スーツもカイトの好みを選び、下着にも気を配るようになっていた。
カイトに見せるわけでもないのに、、、
頬が熱くなったことが何度もあった、、、
とにかくカイトに女として意識されるのが嬉しかった。
人妻だというのに、、、
娘だっているのに、、、
だが、そんなことはおくびにも出さずに美子は今までやってきた。
これからもそうしなくてはいけない。
そう思っていた。
つづく
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