③…
夜の教室に柔道部員の親達が、30人程いるのだが、声を出すものはいなく、異様な程の静けさに包まれていた。
困惑や怒りで、なんともいえない表情を浮かべている親もいる…ガラの悪い男からの脅しともとれる要求…それは、子供達の柔道を上達させるのには、資金が必要なのだと…
自分の言った事に対して、全員の様子を睨みながら観察し始めるその男こそ…教師であり柔道部顧問の熊野である。
まだ30代前半であろう1人の母親が、そんな熊野と目が合い、慌てたように俯く…
熊野「フフッ…(あの奥さんいたのか…よく来れるな…この前、散々ここで犯されたのに…また俺としたくなったか…残念だが…そんな貧相な身体つきに…もう興味はねぇよ)」
その女性は、柔道部主将の母親で、自分の息子が受けた指導という名目の暴力に対して、熊野に文句を言いにきたのが、つい先日の事であった。
そして、熊野が呻き声のような溜め息をつく…
熊野「うぐぅ~…(それにしても…ブスとデブばっかりじゃねえか!どうなってんだ…やっぱり…こんなクソ田舎の奥さん達じゃ…風俗もねぇのによぉ…)」
今日…熊野が、この教室に集合をかけたのは、金を巻き上げることの他に、自分好みの母親を物色する目的もあったのだ。
その時、柔道部の主力生徒の父親が熊野に対して、文句を言い始める…
…資金が必要なら学校から貰えばいいじゃないか?…本当にそんな額が必要なのか?…誰が資金の管理をするんだ?…それから急な呼び出しはやめて欲しい!
まったく彼の言う通りだと、教室にいる全員が思う…
その父親が座る1番後ろの席まで移動した熊野…次の瞬間、教室に響き渡ったのは、耳が痛くなるような怒鳴り声だった…
熊野「協力できねぇなら出ていけ!!お前の子供も辞めてもらうからな!!訴えてみろよ!!お前のせいで柔道部は終わりだろうけどな!!やる気がねえクソ野郎は邪魔なんだよ!!早く消えろ!!」
自分の言う事を聞けないのであれば辞めてもらう、それが3年生の主力生徒でも関係ないのだと、教室にいる親達全員に知らしめたのだ。
悔しさを滲ませた様子で、その父親は、黙って退席するのだが…その背中に追い討ちをかける熊野の言葉…
熊野「子供達は、俺の指導を喜んで受けてるぜ…お父さんよぉ…息子に恨まれちまうなぁ…クククッ」
すぐ隣に座っていた久雄は、近くに立っている熊野に怯え、そこから目を背けていたのだが、急に会いたいと思っていた女性の声が聞こえてくる。
健子「あのぉ…遅れちゃって…すいません…」
教室にいる誰もが、一斉に健子の方を向く…なんて間の悪い…また怒鳴られるぞ…皆がそう思った。
熊野「なんだ遅刻かババア!!…………本当は、許さねぇが…まっ…まぁ、この席が空いたから座れよ」
そう言って教室の前に戻っていく熊野を見て、久雄と他の親達は、なぜ怒鳴ることを止めたのか不思議に思いながらも胸を撫で下ろす…
健子「あらぁ~…ババアって言われちゃったよ私…あっ…久志君のお父さん!また隣ですね…ウフフッ」
重々しい雰囲気の中、何を言われても、いつも通りの感じで、あっけらかんとしている健子が、微笑みながら久雄に話しかけていた。
健子の顔を見て、照れながら久雄は、これまでの経緯を小声で説明する。
健子「うわぁ~…それは酷いなぁ…それでか…さっきすれ違ったお父さん…凄い落ち込んでいるようだったわ…そうなると…お子さんが可哀相よねぇ」
そう喋る健子を、うっとりした顔で見つめる久雄…もう彼が、目の前にいる息子の同級生の母親に抱く感情は、好意でしかなく、その気持ちが強くなっていたのだ。
久雄「……(洋輔君のお母さん…明るくて優しそうで…美人ていうか…なんか愛嬌があって…素敵な人だなぁ…旦那さんが羨ましい…僕も…もっと仲良くなりたい)」
健子「あれ…久志君のお父さん…聞いてます?息子の為とはいえ…その金額は痛いなぁ…そう思いませんか?うち…貧乏なんです…アハハッ」
健子に見惚れていた久雄は、慌てながら相槌する…
そんな2人に、ずっと視線を向けている熊野…その顔は、怒っているものではなく…なんとも不敵な笑いを浮かべている。
熊野「おい!遅刻したババア…罰として、あんたには、色々と手伝ってもらうからな…隣のオッサン!あんたもだ!2人でヘラヘラ喋りやがって!」
自分に指をさして…えっ?私?という驚いた顔の健子と不安そうな顔で怯える久雄…そんな2人を無視するように熊野が話し続けた。
熊野「皆さん!!あの2人に金の管理をしてもらう…それと、週末にやる練習の手伝いもな…それでいいか?もう解散にするぞ!」
パチ…パチ……パチパチ…パチパチパチ…
主将の母親が拍手すると…他の親まで…それに倣うように拍手を始めたのだ…
熊野が…ただ…じっとりとした目で…健子だけを見ている事に…誰も気づかずに…
※元投稿はこちら >>