いい歳をした 独身の男女が 二晩も一緒に居たと言うのに 指1本触れずに過ごした。
今朝も宮本さんは バッチリとメイクをしている。
そして昨日の様に 俺が先に出た。
そして今日は『頭が痛いから』と、定時で帰った。
実の所は 佐山さんから[…早くあがるから、話しを聞いて欲しい]とLINEが有ったらしい。
[早く]と言っても、立場上 定時きっかりに…とは佐山さんは出来ない。
それを見越しての選択だった。
『確かに 掛けてこないで!ってしか言ってないけどさ、LINEもダメな事くらい分かんないのかしら あの人』
『ブロックし忘れた私もバカだけどさ、あり得ないでしょ!』
相当 ご機嫌斜めの様子で帰って行った。
「ただいま」
今夜も部屋に灯りが点っている。
『おかえりなさい』
『ご飯 出来てるわよ今日は』
『お風呂も汲んである、先に入っちゃったけど私』
『どっちにする?、ご飯とお風呂』
『それとも私(笑)?、なんてね』
「ん?、まずはキレイにしてくる」
「温まりながら考える」
『そぉぉ、考えるんだ?』
『なら、先に飲んどけば ユンケル、試した事ないんでしょ?、即効性が有るとは限らないんじゃない?』
「…だね」
俺は そう言いながら 冷蔵庫に手をかけた。
『もォォ!』
『いいから 入ってきて!』
宮本さんが 俺の手を払った。
ご飯を食べはじめるとすぐに
『何か言われた?、あの人に』
と、聞いてきた。
「うん」
「話しさせてくれ、俺んち教えてくれ、って」
『で?』
「本人が拒否ってるのに 教える訳にはいかない、パウロみたく あとつけるなり、総務に聞くなりしてくれ、って」
「今夜も俺んちに居るとは限らないですけどね、って」
『で?、何て?』
「人の女に手ぇ出しやがって、って言ってきたから、まだ指1本触れてませんよ、信じるか信じないかは貴方次第ですッ!、って」
と、人差し指で差してみせた。
『そしたら?』
「そんなの信じる奴居るかッ!、って」
「だからさ、そういう恋愛しか した事ないんですね?可哀想な人なんですね佐山さん、人の女とか… 婚約者でしょ?仮にも そんな言い方しますか?、って」
「あっ、失礼、婚約者だった人 でしたね今は、って言ってやったら ブツブツ言いながら帰って行って それっきり」
『そう…』
『でも それが事実だからね』
『指1本触られてないし、信じらんないけどさ、私も(笑)』
そんな事を言いながら 宮本さんが食器を片付けはじめた。
「いいよ、洗っとくから」
『いいの?』
『じゃぁ お願いしようかな?』
『メイク 落としてくるね』
「…えッ?」
「宮本さんこそ いいの?」
「見られちゃうよ スッピン、あんなに嫌がってたのに?」
『うるさい!』
『何 つッこんでんのよ!』
洗い物を終え 俺は一足お先に こたつに潜った。
『ケンちゃん?』
『一緒に寝て…』
寝室の扉が閉まると すぐに そう聞こえた。
「一緒にったって、枕も ソレだけなんですけど」
『腕枕してくんないの?』
「しょうがねぇなぁ」
と、俺は扉を開けた
『明るくしないでね』
そう言った宮本さんが壁際に寄って
『…どうぞ』
と、枕をずらした。
何を どう言って良いかも分からず、黙って横になって 腕を伸ばした。
『ありがとう』
そう言いながら 宮本さんが 俺の胸に 額をのせた。
「あのさ…」
『何ぁに?』
「会話だけ聞いてるとさ 高校生か大学生みたくね?」
「独居老人だよ 俺たち」
『独居老人とは失礼ね!、確かに私の方が歳上だけどさ、学年だと2つだっけ?違うの』
「うん、三年の時の一年」
『私もね 読んだのよ あのマンガ』
「黄昏流星群?」
『そ』
「バレちゃった?、受け売りなのが」
『そんな事ないよ』
『ちゃんと ケンちゃんの言葉に聞こえたよ』
「ありがとね、気ぃ使ってくれて」
『そんな事ないって!』
『嬉しかったもん、かばう位ならできるさかも…、って』
「それも《糸》の 受け売り だけどね」
『何で自分から そんな事言うかなぁ?』
宮本さんは そう微笑いながら 俺を見上げている。
俺は 黙って 見つめ返す事しか出来なかった、が
「目 開けたまま(キス)しますか?」
やっと 口をついたのが そんな言葉だった。
『バッカじゃないの?』
そう言って すぐに唇を重ねてきたのは 宮本さんの方からだった。
長いキスだった。
髪を撫で合い。
体を入れ替え。
見つめ会っては また瞳をとじて。
長い長い キスだった。
ビクッと震え。
肩で息をして。
宮本さんは その長いキスだけで 軽く達してしまった様にみえた。
その宮本さんが 俺を抱き起こし パジャマを捲りあげ 俺の乳首をついばんでいる。
俺は パジャマを脱ぎ捨て、宮本さんに応える様に 宮本さんのパジャマの裾を手を掛けた。
一旦離れて 万歳をした宮本さんが むさぼる様に唇を重ねてきた。
俺は 自分で パンツごとパジャマのズボンを脱ぎはじめた。
すると 宮本さんも 自ら 下を脱ぎはじめた。
互いに舌をむさぼり合ったままで。
唇 首筋 胸 乳首 脇腹・・・。
宮本さんの舌と唇が 少しずつ 下に下りてゆく。
宮本さんの唇が 俺の怒張に差し掛かろうとした時、体を入れ替え、今度は お返しとばかりに 俺が舌を這わせた、あの一部分を除いて、背中から腰 腰からくるぶし 唇から首筋 首筋から胸 至るところを 何度 往復させただろう?
釣りあげられた魚の様に 何度 宮本さんは 跳ねただろうか?
舌を絡ませ合うのは 何度目だっただろう?
俺のを握った宮本さんが 首を振って自ら離れた。
『お願い…、これ』
そう言って 少し強めに握ってきた。
「まだ何もしてないけど?」
「これからだよ?」
『…ダメ』
『おかしくなりそう…』
そう言って 握ったまま俺を導いた。
亀頭が 微かに《そこ》に触れると、宮本さんは 自らの手の甲を噛んだ。
眉間にシワが出来る程 眼を瞑り《その時》を待っている。
取り込もうとするかの様に 腰まで浮かせて。
俺は ゆっくりと貫いた。
宮本さんは 身体をよじりながら 更に腰を浮かせた。
そして 手の甲を噛んだ口もとから(ぁぁぁ)と小さく息をもらすと ビクンビクンと崩れてしまった。
恥ずかしながら、それから後の事は良く覚えていない。
宮本さんも『そのまま』と言った事すら 覚えていないらしい、本当の所は分からないが。
気付けば 時計の針は随分と進んでいた。どうやら これまででは経験した事がないほどの時間 宮本さんと繋がっていたらしい。
夢中だった。
久しぶりの女性、確かに それも有ったと思う。
ただただ夢中だった。
「肌を重ねても埋らない」って言ったのは俺なのに 何とか埋めてあげようと夢中だった。
いつの間にか そのまま2人は眠ってしまっていた。
「おはよ」
「早いね、相変わらず」
『この 床反社(893)!!』
『何が 赤まむしィッよ!』
俺の「おはよう」に返ってきた第一声が それだった。
「えっ?、受け売り?流星群の?」
『こんな近くにいるとは思わなかったわよ とこ反社 なんて』
『893って言う位だから そっちの世界の人の事だと思ってたわよ』
「…怒ってんの?」
『怒ってるけど 怒ってないわよ!』
「わけワカメ!」
『ぷッ、居るんだ、今どき まだ そんな事言う人』
『そろそろ お湯 沸くわ』
『顔 洗ってきたら?』
換気扇の下でタバコを吸いながら 向こうを向いたままの宮本さんとの会話だった。
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