仕事終わり、社員通用口から出て、壁に背中を預け、スマホを見るともなしにイジりながら宮本さんを待った。
「お疲れ!」
『お疲れ様でしたぁ』
「ん?、どうした板橋?」
皆 それぞれに声をかけては 俺の前を通りすぎてゆく。
そこにはパウロの姿も有った。
さらに10分程待っただろうか?
『じゃぁね、また明日ぁ』
宮本さんが同僚の外国籍女性に手を振っていた。
『ゴメンね、待たせちゃって』
『…お願いします』
と頭を下げている。
2人並んで歩き、『居るよ、たぶん…』そんな話しをしながら角を曲がると、案の定 喫煙所にパウロがいた。
が、並んで歩く俺を見たとたん、煙草を消すパウロの手が止まった。
そして ややひきつった顔で こちらを見ている。
俺は あえて談笑しながら横切った。
『ね、居たでしょ?』
「居たね」
『歩いてる?後ろ』
「そんなの分かんないよ、振り向くのも不自然でしょ?」
『そぅだけど…』
『怖いよね?』
『何 考えてんのかしら?』
「アピールしてんじゃないの?、彼なりに」
『…だって、言ったのよ!、彼が居るって、貴方も知ってるでしょ?、って、それなのに?』
「それも 片思いの1つなんじゃないですか?」
『そんなぁ!』
「…無かった?」
「好きな先輩に彼女が居た…、なんて事。それと同じなんじゃん?」
『そりゃぁ、まぁね…』
『でも あの歳で?』
『あり得ないでしょ?』
『奥さんだって居るのよ』
「恋は何とか…って言うからさ」
「失礼を承知でハッキリ言っちゃうとさ、佐山さん 離婚協議中だったでしょ?付き合い出した頃、戸籍上は まだ妻帯者だったんだよね?」
「たいして変わんないと思うけど…」
『・・・、事実上は破綻してたわ!』
『でも何で?、何でケンちゃん そんね事まで知ってるの?』
『ね?、何処まで知ってるの?』
「何処までって言われてもねぇ…?」
「宮本さんの彼氏を悪くは言いたく無いけど、どうなんだろ?」
「塚本と付き合ってんの知って、塚本呼びだして、女房が居るのに何やってんだ!ってヤキ入れて別れさせて、その相手に今度は自分から告って、まだ妻帯者なのに…」
「ゴメンね、俺、こういう性格だからさ、で その彼女がストーカーされてんのに一緒帰る事もしてくんないんでしょ?」
『塚本くんの事まで知ってるんだ』
『・・・・・』
『噂どおりの人ね、ケンちゃん』
「噂って?」
『良く言えば 裏表が無いって言うの?』
「悪く言えば?」
『平気でズカズカ…、かな?』
『嫌ってる?佐山さんの事』
「ゴメン。好きだの嫌いだの言うほど関心がないんだ、佐山さんにもパウロにも…」
「…どっち?駐車場」
『こっち』
横断歩道を渡って右手を指さした。
「俺も こっち」
『どこ?』
「後ろ、幼稚園の」
『じゃぁ、そこ曲がるのね』
と次の交差点を指さしている
『私は まっすぐ』
『ありがとね、ケンちゃん』
「いいよ、車まで行くよ」
『何で?、悪いわ…』
「関心が有るから…かな?」
「宮本さんには…」
『あらっ、どっちの関心かしら?』
「今日も いい匂いしてんなぁ?、とかね…」
『皮肉じゃないよね?』
「うん、違うよ」
「今は いい匂いしてるよ」
『今はって!、それを皮肉って言うの!』
そんな話しをしながら車まで着いた。
『ありがとう!ケンちゃん』
『ゴメン、戻らせちゃうね』
「そんな事ないよ、ほら そこのフェンスの横 抜けられるハズだから」
「で、駐車場ぬけて、道路わたれば…、でしょ?」
『あっ、あそこなんだ?』
「気をつけてね」
『ありがとう』
俺は 宮本さんの車を見送った。
翌日、『今日もお願いして良い?』
と言われ、昨日と同じ様に宮本さんを待った。
『お待たせ』
『ゴメンね』
宮本さんが手を振って やって来る。
仕事中は いっさいパウロの話しはしなかった、で、聞いてみた
「そぅ言えば 返してたよね?パウロに」
『うん、返したよ』
『何で?』
「って言うかさ、おかしいでしょ?、こんなご時世に帰国なんて」
『そぅ言えば そうだよね?』
『行けたとしても、帰ってこれないよね日本に…』
『どぅしたんだろ?アレ』
「まぁ、何処かで探したんだろうね」
『だよね、じゃ・・・』
宮本さんの言葉が止まった
『…何で!?』
『何で今日も居るの?』
今日もパウロは喫煙所に居た。
「毎日 こうやって一緒に帰ってんの見れば諦めるでしょ?そのうち」
「可愛いもんじゃん、あぁやって必死にアピールしてんだよ」
『もぉ!』
『私は笑い事じゃないんですけど!』
「大丈夫だって!」
「用事が無いかぎりは 毎日 ご一緒させて頂きますから…」
『ホントに?』
『ありがとう』
そんな毎日を繰り返した。
パウロも毎日 喫煙所に居た。
そして 10日ほど過ぎた頃には 2人の事が社内で噂になっていた。
『ゴメンね ケンちゃん』
『私のせいで変な噂になっちゃって』
『でもね、由美ちゃんには言ったの、こういう訳で一緒に帰ってもらってるって、お昼に』
『心配してくれてたから、由美ちゃん』
『ケンちゃんは?、何か言われたりしたの?』
「うん」
『何?』
『何て言われたの?』
「典(のり)ちゃんと付き合いだしたのか?、って聞いてきた奴も居たね」
『で?、何て答えたの?』
「スッピン見たくてさ、毎日帰りに待ち伏せして口説いてんだけどさ、なかなか落ちてくんないんだよ、って」
『何それ???』
「何それって、そのとおりだから そのまんま答えただけ だけど?」
「だいたいさ、もし 俺と宮本さんが付き合ってんなら まず佐山さんが黙ってないでしょ?、塚本じゃ無いけどさ 呼び出されんでしょ?俺も」
「佐山さんが 何のアクションも起こしてないってのに、そんな事にも気付かないんだよ あいつら」
「そんなモンだよ、噂なんて」
『そんなモンだよ…ってさ、それは そぅかもしんないけど…』
「そんなモンだって」
『でもさ・・・』
『見たいの?スッピン、私の』
『口説かれてたの?私』
『それとも 塗りたくってるって言いたいの?』
『口説いてくれる様な事 言われた覚えも無いんですけど』
「塗りたくってるなんて 思ってません、思ってないけど、スッピン見たいのは本当です」
「って、これじゃ口説いた事には なんないかぁ…?」
『何か バカにされてる?私』
『いい歳こいて ストーカー ストーカーって騒ぐな、って思ってる?』
『そぅなの?』
「あのさ、そんな事思ってたら 噂されてまで ご一緒しませんて」
「言ったでしょ?、関心が有るからだって。そのとおりだから そのまんま答えたって、言わなかった?」
『訳わかんない!』
『そのまんまなの?』
『ホントに そのまんまなの?』
「そ!」
「額面どおり その まんま」
『もぉ!頭いたい』
『ホントに訳わかんない!』
『煙草 付き合って!、良いでしょ?、帰っても1人なんでしょ?』
「1人ですけど 何か?」
「宮本さんは良いの?、娘さんは?」
『私の事は いいから!』
「なら、コーヒー買ってこ」
「何でも良いの?」
『一緒に行くわよ、私も』
コーヒー片手に 宮本さんの車に乗りこんだ。
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