「さて、宮本さん?」
「咥えてくんない?、この辺りで」
そこは 隣街の大型ショッピングモールの紳士服売り場。
様々なタイプの吊るし物のコートが 並んでいる。
行動制限の影響も有ってか 人影はまばらだった。
「行くよ、宮本さん?」
遅めの朝食を済ませて 宮本さんを誘った。
『本当にコート探しに行くの?』
『そりゃ新しいのは嬉しいけどさ、良いわよ私は』
「嬉しいんなら良いじゃん」
「色々 楽しめそうなヤツ 探そうよ、ほら、行くよ」
『楽しめるって‥』
『本気なの?』
「本気だよ」
「汚されたいんだよね?」
『もぉ!、改めて言わないでよ』
『で?、どこ行くの?』
「ほら 隣街の‥」
『実は私もさ 見たいお店が有ったの、このあいだまでは ほら、パウロの事とかも有って なかなか行けなかったしさ』
『コートは置いとくとして、行ってみようか?』
ショッピングモールに着いて、まず 宮本さんが向かったのは〔H◎M〕。
ここは中央に百貨店が有り、それを取り囲む様に テナントが それぞれ独立した店舗が店を構えていた。
吊るされたハンガーを取っては、キレイに畳まれた物を広げては、振り替えっては胸に当てたり、そんな仕草をしながら俺に見せてくる。
宮本さんの押す 買い物カートの上のカゴには 既に数点の衣類が入っていた。
『コートも見るんですか?』
「そうだね」
2人でコートの所に向かった。
『どうしたの?ケンちゃん?』
「ん?、なかなかピンとくるのが無くてさ、百貨店の方 行って見ない?」
『幾らか お高いわよ 向こうは』
「気に入らない物 買ったたてさ‥」
『そうかも しんないけどさ‥』
『お会計してくるけど、ケンちゃんのは? 良いの?』
「うん、取り敢えずはね」
『良いの?』
『してくるよ お会計』
「一緒に行くって 俺も」
宮本さんが会計を済ませて、百貨店に向かった。そこには 色々なブランドの専門店も入っていた。
最初に目に止まったのは 真っ白なウールのコート。
「羽織ってみて」
そう言って コートを渡した。
『こんなのダメよ、幾らするとおもってんの?』
「いいから」
宮本さんは シブシブ コートをはおった。
『でも、真っ白よ、いつ着るのよ こんなの』
「‥だよね?」
「そんなに白いんじゃ、何処にも座れないし、寄り掛かれないよね?」
『何よ それ?』
「公園のベンチにも気を使うだろうし、ビルの壁に寄り掛かるのも無理だろうね?」
『この辺に そんな ビルなんて呼べる建物なんて有るの?』
「県内なんて言ってないよ俺」
「確かに今は自粛ムードだけどさ」
『ホントに?』
『本当に そんな事 考えてるの?』
「そうだよ」
「真っ赤な ブラとガーターベルトが似合うんだろうなぁ?、とか」
「だから 出来るだけ暖ったかそぅなんが良いよなぁ?、とか」
『じかに 着せる気?、これを?』
「そうだよ」
「見た事あるでしょ?、ビデオや何かで、した事あるかは分かんないけど」
『そりゃぁ、無いとは言わないけどさ、だからって‥』
その店舗の奥のレジの上には〔2◎区〕と書いてあった。
次に目に止まったのは ウチのソファーと似た色味のグリーン系のダウンコート。
お値段は 先程のモノの6割程度、これなら文句も言わないだろうと、また羽織らせてみた。
「どぅお?」
『どぅお?って、これも じかに着させるんですか?』
「そうだよ」
「冷たそぅとか、そんな事ない?」
『うん、裏地は こぅなってるからさ、大丈夫だとは思うけど』
と、フリースの様な裏地を俺にみせた。
「大丈夫ってさ、フフ」
「ちゃんと想像してんじゃん、宮本さん」
『ん、もぉお!』
「それで 通勤電車とか‥、楽しいそぅじゃない?」
「俺は 少し離れて見てるからさ」
「何本の手が入って来るんだろ?」
『何本て そんな‥』
『似た様なコート着てる人なんて何処でも居るわよ、もっと若い子だって』
「嗅ぎ分けられるらしいよ、その手の職人さん達には」
『そんな‥、痴漢に職人なんて居るの?』
「大丈夫だよ宮本さん」
「ちゃんと ついて来れてんじゃん、1つ1つ想像してたんでしょ?」
『もおー!』
「それに しようか?」
『知らないッ!』
俺は 会計を済ませて 先程の〔2◎区〕にもどった。
白のコートを手にレジに向かった。
『ちょっと、ケンちゃん?』
『何してんの?、買わないわよ そんなの』
「そんなの、って失礼だな!」
「似合うと思うんだけどな、これ」
「それにさ、買うの俺だよ?」
『だから!』
『言ったでしょ?』
「金かけるな!って?」
「少し早いけどさ クリスマスプレゼントだとでも思ってよ」
「すみません、この後 自分の物も見たいし 昼食もしたいので、他店の物で大変失礼ですが お預かり願えないでしょうか?」
と、都合3つの袋を店に預けて、紳士服売り場に向かった。
宮本さんの様に テナントでは無く、百貨店側が経営する、吊るし物のコート売り場を目指した。
「どうしたの、宮本さん?」
『何が?』
「色んな事 想像しちゃった?」
『知らない!』
「濡れちゃった?、もしかして」
「もぉ、教えないッ!」
そんな話しをしながら エスカレーターで紳士服売り場に登った。
そこにも 様々なタイプのコートが 吊るされていた。
自粛のせいか 時季が早いのか そこは 人も まばらだった。
「さて、宮本さん?」
「咥えてくんない?、この辺りで」
『ケンちゃん?、簡単に言うけどさ』
『こんな所で するの?』
「そうだよ」
『そうだよって、呆れた』
『どうやって するのよ、こんな所で』
「ほら、ここで」
俺は 吊るされたコートを 両手で かき分けて 空間を作った
「ほら、入って」
「入れんでしょ?宮本さん」
『誰か来たら どうすんの?』
「誰か来たら?、変なヤツが居るなぁ?って、横目で見てくだけだよ」
「そしたら 俺がコートで隠すから」
「大丈夫だって 入って 早く」
宮本さんが その空間に入るのを待ち切れず 俺は ファスナーをあけて引っ張りだした。
空間にしゃがんで 宮本さんが俺を見上げた。
「早く」
ヌルッとした暖かいモノが亀頭をつつんだ。
しかも 百貨店の売り場で。
異様な興奮だった。
無意識に宮本さんのリズムに 俺の腰が合わせていた。
ほんの数秒だったか、数分だったか、その興奮に俺の意識が飛んだ。
何処かに 誰かの 声が聞こえる。
[お客様?]
店員さんの声だ。
「宮本さん」
「店員さん」
「離して!」
が、宮本さんは 離すどころか加速度を増してゆく。
[お探し物ですか?]
店員さんの声が近づいてくる
「宮本さん!」
小声で そう言うのが精一杯だった
「え?、えぇ、あの」
「こ、あの、コートを‥」
それでも 宮本さんは離してくれない
[いらっしゃいませ]
まだ 離さない
[どの様な物を‥]
店員さんは すぐ そこまで来てる
「宮本さん!」
小声で呼びかける事しか出来ない
それでも まだ 離してくれない
「あっ、あの、あの」
「長いの無いてすかね、長いの」
俺は 店員さんと俺との間に有るコートを適当に手に取り 店員さんにみせた、そうする事で 何とか隠そうとしていた。
(気付いてねぇのか?)
(んな訳ねぇよな?)
(店員さん 来ちまうって)
(離せって)
色んな事が頭の中をグルグル回った、それでも宮本さんは離してくれない
(‥アウトぉ!)
そう思った時だった。
『もぉお!』
『あんなに奥まで 行っちゃってたわよ、もお!』
やっと離してくれた宮本さんが、コートとコートの間から出てきた、そして 手に持った家の鍵を チャラチャラと目の前で揺らして見せた。
『ごめんなさいね』
『これじゃ ただの怪しい夫婦ですよね?、本当に すみません』
宮本さんに つられて 俺も一緒に頭を下げた。
[とんでも ございません]
[本日は どの様なコートを‥?]
「相棒とか観ますか?」
「右京さんの あのコートのイメージなんです、ふくらはぎ が隠れるくらいの長さの‥」
[存じております]
[左様で ございますか?]
[お客様のお身丈ですど 当店の既製品では‥]
『ほらね』
『だから言ったでしょ?』
『ホント 何から何まで すみません、他 行ってみます、すみませんでした』
そう その場をあとにした。
「宮本さん、危ないって」
『何が?』
「何がって、あんなギリギリまで」
「見つかってたら どうすんの?」
『だって悔しいじゃない?』
「悔しいって?」
「あんな所で させちゃつて?」
『変態さんて お好きなんでしょ?、ああいうシチュエーション?、そんなんじゃ無くてさ』
『どんどん 育ってくるのよ、私の お口のなかで‥、ゆうべ よりもよ』
『店員さん見て ゆうべよりも大っきくなっのかと思ったら 悔しいじゃない!?』
『だから ちょっと 意地悪しちゃった、フフ』
「フフって、そんな‥」
(店員さんが来てるのを承知で 俺を攻めてた ってか?)
(ホントは経験豊富なんじゃねぇのか?、俺なんかより ずっと‥)
そんな事を思いながら 宮本さんと2人 他のテナントを探した。
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