敦子「もしもし…須藤ですけど…」
電話の向こうから聞こえてきたのは敦子が嫌う男の声だった。
五木田「敦子か?お前…俺をクビにしようとしやがって、許さねぇからな、まぁ…美鈴さんから聞いてると思うが接待…楽しみにしてるぞククク」
敦子「五木田さん…あなたって人は…ハァ~…ウチは勝ちますから楽しみにしなくていいですよぉ~」
五木田「お前、偵察にきたんだってな…武藤さんから聞いてるぞ、それで勝つ自信があるんだろうが…ククク、祝勝会は試合が終わったらすぐにやるからちゃんと着替え持ってこいよ」
敦子「だからウチは負けませんって…」
五木田「お前は、俺を本気で怒らせたからな、今のうちから俺に媚びてたほうがいいぞ」
ガチャン…
敦子「あっ切れた…何なのよ…(なっ…なんかアイツ自信ありげだったわ…大丈夫かな)」
…
……
武藤「五木田さん…本当なんですか?あの奥さんが祝勝会に来て接待してくれるって!だっ…だったら絶対に勝ちましょう!」
五木田は武藤の家から電話を掛けていた。
五木田「必ず勝てるさ、その為には武藤さん…分かってるよな…頼んだぞ」
武藤「まっ…任せてください。奥さんの接待の為なら何だってしますよ!それに皆もそんな条件なら頑張るはずです。」
…
……
練習試合当日…
美鈴「敦子さん、頼んだわよ、絶対に負けられないからね!」
旦那「敦子~、頑張れよ~」
ナツヒコ「お母さん、怪我しないでね」
今日は旦那とナツヒコが応援したいと言い出し、旦那の運転で2人と一緒に敦子は体育館まで来ていた。
敦子と美鈴が話していると、そこに五木田が姿を現す。
五木田「よぉ~、美鈴さん、俺が勝ったら、約束はこの誓約書に書いてある通りに従ってもらうぜ」
敦子「…誓約書まで…」
五木田「敦子、着替え持ってきたか?汗臭い短パンとユニフォームじゃ接待されてもなぁククク」
敦子「くっ…負けませんから」
美鈴「敦子さん!もし負けた時のコーチ代はあなたが払う約束も忘れないでね!」
敦子(このババア…それは私、了承してないだろぉ!)
五木田「ククク…何だよ?敦子が払ってくれんのか?お前も大変だなぁ」
敦子が五木田を睨んでいると後ろから声をかけられ、振り向いた敦子の目の前にいる意外な人物に表情が曇ったのだった。
武藤「奥さん、今日はお互い頑張りましょう!」
敦子「えっ…?なっ何で…キミが?」
ヒデアキ「おばさん?えっ?何で?」
武藤「ん?ヒデ…奥さんと知り合いか?こいつウチの息子です」
ヒデアキ「友達の…お母さんだよ…」
……
………
試合前のミーティング、敦子のチームのメンバーは相手に若い男性がいることに驚いている。
メンバー「敦子さん?若い子がいるって聞いてないよぉ…それにあの若い子と知り合い?なんだか、表情が暗いわよ…」
敦子「えぇ…ちょっとね…1人体調不良で今日は代役ですって…(まずいわ…確かヒデ君、中学の時、全国大会出てるって…ナオヤが言ってたわね…)」
一方の五木田のチームでは、中年のオヤジ達の士気が上がっていた。
五木田(まさか敦子があのガキと知り合いとは…ククク、あの表情だとガキの実力知ってやがるな)
ヒデアキ(まさか、おばさんとこんなところで会えるなんて…まっ負けてあげようかな)
メンバー「武藤さん、本当に勝ったらあの美人さんが接待してくれんのか!よぉし皆、勝つぞ~」
ヒデアキ「えっ?オヤジ、それ本当なの?その祝勝会は俺も参加していいのか?」
武藤「何だよ、お前、もしかしてあの奥さんの事…まぁ親子だから好みが似てるのかンンッ」
そして練習試合が始まったのだが…
敦子を応援していた旦那やナツヒコからすぐに諦めの言葉が出てしまい、美鈴はイライラしながら頭を抱えてしまった。
試合は一方的だった…
まさにヒデアキの一人舞台となってしまい、敦子達は、ほとんど何も出来ないまま1セットも取ることが出来ずに大敗した。
美鈴「あぁ~あ、敦子さん!何なのこの有様は…まったく…後の事はあんたが何とかしなさいよねぇ、五木田を説得するとか、私は胸糞悪いから帰る」
敦子「そんなぁ…美鈴さん助けてくださいよ」
美鈴「後で私も五木田と話してみるわよ、今日の負けの分の接待は、あんた頑張って来なさい、フン…色仕掛けでもして五木田の怒りを鎮めてみたら」
敦子「色仕掛けって…(そもそも全部、あなたのワガママが原因なのに…うぅ)」
気落ちしている敦子に旦那と息子が話しかける。
旦那「敦子お疲れ様ぁ…残念だったね、あれナオヤの友達の子だろ?凄かった。滑田さんに何か怒られてたっぽいけど…アハハ…気にするなよ」
ナツヒコ「お母さん、また次に勝てばいいんだよ。ね、だから元気出して」
敦子「アナタ、ナツ、ありがとう……あのね先に帰っててくれないかな、私、これから反省会とかいろいろ…」
……
………
敦子はショートボブの髪を整え、上はニット素材の緑色のシャツ、下はチェック柄の長めのプリーツスカートと、ベージュのパンストを履いた。
敦子「不安でしかないわ…」
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