話は変わって、102号室では河上夫婦が真剣な話し合いをしていた。
『景子、どうやら実家の親父の認知がひどくなったらしくて地域の包括支援センターから様子を見に来て欲しいって連絡があったんだよ…』
『そうなんですね…お義父さま、一人暮らしが長いから心配ね…』
『そこで景子に頼みがあるんだが…すまないが、一週間ぐらい親父の様子を見に行ってくれないだろうか?』
『えっ?それって泊まり込みってことよね?』
『そりゃそうだ、ダメかな?』
『ううん、大丈夫よ。嫁として…できるだけのことをやってみるわ』
『そうか、ありがとう景子、詳細は支援センターの人と打ち合わせてくれ』
『わかりました。でもあなた、私がいない間、大丈夫?』
『あぁ、大丈夫だ。性欲処理はお隣の恭子さんに頼もうかと…』
『そ、そうね…私からも恭子さんにお願いしとくわ』
翌日、景子は夫に教えてもらった義父の世話をしている地域包括支援センターの担当者に電話した。
『河上と申します。いつも義父がお世話になっています。』
『あぁ~河上さんの…ご連絡ありがとうございます。高橋と申します。お父様とても元気なんですが認知が進んでまして…いずれ施設の入所が必要になると思われますが、ご家族の方にとりあえず様子を確認していただきたくて…』
こういう仕事は女性スタッフが対応してるのかと思いこんでいたが、義父の担当者は落ち着いた感じの男性だった。
『あっ、はい、近々一週間ぐらい様子を見に行くように主人に言われておりますので…』
『それは助かります。河上さん、これからいろいろ連絡を取らさせていただきたいので電話やメールさせていただいても宜しいですか?』
『あっ、もちろんです。いつでも大丈夫です!』
『ありがとうございます、河上さん、ちなみに下のお名前はなんとおっしゃるんですか?』
『えっ!?私の下の名前ですか?』
『すみません、これから一緒にお父様の介護をするのに必要な情報になりますので…』
『あっ、そうなんですね…景子です。河上景子です。』
『景子さん…ですね。お声も素敵ですが、お名前も素敵ですね』
高橋の意外な言葉に戸惑った。
『やっ、やめてください、恥ずかしいですから…』
そうは言ったものの、正直嬉しかった。
その後、頻繁に電話やメールをするようになった。
『景子さん、おはようございます。いよいよ、明日こちらにいらっしゃるんですね。駅まで私がお迎えに上がりますね。』
『高橋さん、おはようございます、いつも義父がお世話になっています。あっ、お迎えだなんて、大丈夫ですから…』
『いえいえ、車の中で景子さんといろいろお話もしたいので…』
車の中で…いきなり二人っきりに…
『あっ、そっか、そうですね。では、お言葉に甘えて…』
もはや義父の様子を見に行くんだか高橋さんとデートしに行くんだか…よくわからなくなってきた。
介護のこともあるしジーンズ姿で行こうかと思ってたけど…スカートにしよっかな。
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