「いやぁ旦那さん、ご無沙汰です」
俺が応答するよりも早く、携帯からは 山崎の声が聞こえてきた。
こちらをからかっているような、楽しくて仕方がない雰囲気の陽気な声だ。
俺の答えを待つこともせず、中身の無い 世間話とも言えない話題を自分勝手に話していった。
そして俺のイライラがピークになった瞬間に、唐突に言葉を突き刺してきた。
おそらくはこの言葉を言いたくて電話してきたのだろう。
「今日はすいませんね、朝から奥さんをお借りして・・・」
朝・・・?
妻は確かに『ランチ』と言った・・・朝からだって?
「いやぁ、元々はランチに誘ってたんですがね、予定がぽっかりと空いてしまって・・・で、ダメもとで誘ってみたら、奥さんはもう用意を終えてるって言うじゃないですか・・・これはもう誘うしかないと、予定より早く会おうと言ったんですよ・・・」
「・・・それで・・・妻は朝から・・・」
「そう・・・9時半には会えてたかな?とにかくラッキーでしたよ」
俺はまた時計を見た。
12時38分・・・
妻はまた この男と・・・山崎と3時間も・・・
「で、これからランチに出ようと思いましてね、真由美・・・奥さんの用意を待ちながら、旦那さんに ご報告でもと思いまして・・・」
今はどこなんだ・・・
3時間も何をしてたんだ・・・
グチャグチャに混ざり合う疑問に、山崎が まるで当然のように妻の名を呼び捨てにした違和感が溶ける。
そうやって俺は何も言えず、何も聞けずに電話を終えた。
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