エレベーターの扉が開き、送り届けた時と同じ服装の妻が出てきた。
しっかりとした足取りで、無人のフロントの前を通り過ぎていく。
俺は無意識に妻の顔が見えなくて、助手席に乗り込んでくる頃には前を向いて固まっていた。
助手席のドアがバタンと閉まると、人数が増えたはずの車内に さっきまでよりも濃い静寂が訪れた。
お帰りと言うのは違う気がして、かといって他の言葉も思いつかなかった。
無言の空間の居心地の悪さに、慌てて車を発進させる。
何も言えないまま運転した。
左折しながらチラッと助手席に視線をやると、妻は窓の方を見ていた。
ガラスに反射した顔は口元しか見えず、表情を読み取ることはできなかった。
けれど俺は自分の欲望に負け とうとう妻を問い詰めはじめた。
「あのさ・・・その・・・どうだった?」
「・・・・・どうって?」
「いや、その・・・じつは、さっき電話で話したんだ・・・・・あの男・・・山崎は、お前に嫌われてはいないはずだって言ってた・・・」
俺は慎重に言葉を選びながら、何も言わない助手席の妻をチラチラと見た。
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