携帯から聞こえる山崎の声を聞きながら、ハンドルを握る手に無意識に力がこもっていた。
車内のエアコンは全開なのに、額に汗が滲んでいく。
視線の先では、デジタル表記の時計が10時46分を指した。
7時になっても、妻は車から降りられなかった。
俺の望みを受け入れたことを、あらためて後悔していた。
許した自分自身に怒り、まだ見ぬ男を恐れ、羞恥心に押し潰されながら震えていた。
ようやく顔を上げ、車を降りたのは7時半を過ぎていた。
部屋に着いたのは8時近かっただろう。
しかし今はもう11時近い・・・
妻はほぼ3時間とゆう長い時間、この男と2人っきりでホテルの部屋に・・・
山崎は妻に触れたのか・・・?
妻は・・・真由美はどこまで許したんだ・・・
そんな事ばかり考えながら、情けない声で山崎との会話を続けた。
「それで・・・その・・・妻とはどこまで・・・」
山崎は無言だったが、ニヤニヤと楽しそうに笑っている雰囲気が伝わってきた。
どう答えてやろうかと、悪意に満ちた思考をめぐらせている・・・そんな風に思えた。
「・・・内容は、奥さんから聞きたい・・・それが貴方の望みだ、違いますか?・・・私からではなく、たとえどんなに拙くてもいいから奥さんから聞きたい・・・メールで何度も そう言ってたでしょう?」
その声は、明らかに笑いをこらえていた。
言ってやりたい・・・けれどそれ以上に、自分よりも弱く情けないこの男を苦しめてやりたい・・・そんな雰囲気が言葉の端々から伝わってくる。
俺は自分が出した愚かな要求に絶望しながら、何も言えずにいた。
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