「おお よかった、やっと棚がった」
約束の10時を45分も過ぎたくせに、山崎の声は陽気だった。
悪びれた様子は微塵もなく、言葉の節々には まるでこちらが悪いような雰囲気すらある。
俺はプロフィールにあった山崎の顔を思い出し、さらに不快な気分になった。
「あ、その・・・約束の時間が・・・」
「そうそう、そう、その事なんですよ、いや分かってはいたんですけどね、ちょっと奥さん・・・真由美さんが体調を崩されましてねぇ・・・」
真由美・・・俺は妻の名を伝えたか?
いや確かに伝えてはいない・・・が、妻を送って もう3時間。
会話の中には自己紹介もあっただろう。
緊張した妻が、うっかり自分から教えたのかもしれない・・・
そんな事を思いながら、俺は混乱しながら会話を続けた。
「それで、その・・・妻は今・・・」
「大丈夫、安静にしてますよ、ちゃんと安らげるように、大切にしてます・・・今はもうすっかり回復して、シャワーを浴びてる最中ですよ」
シャワー・・・その単語に、それまでに感じていた不快感や憤りが吹き飛んでしまうほどドキッとした。
妻は今、体を洗っている・・・洗わなければいけない状態になった・・・
あぁ・・・妻は・・・
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